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【閑話】○○しないと出られない部屋/ラファ×ギル(3)
* *
風や太陽光に当てるため、アンリの家では今日、サンルームに置いてあった鉢植えの大半が庭に出してあった。
そのいくつかを、ギルベルトが壊したのだ。
昨夜、ギルベルトは一人の男をナンパして、そのまま近くの宿で飲んでいた。もちろん、ほどよく酔わせた後には別の意味でも楽しむ予定で。
なのに気がついたときにはギルベルトの方が先に酔い潰れていて、そのまま朝を迎えてしまった。
しかも、目が覚めたらそこに相手の姿はなく――それどころか、ギルベルトの有り金も全て消えていた。
もともとギルベルトは酒に強い方ではない。しかし、それにしても昨夜は潰れるのが早すぎた。きっと薬でも盛られたに違いない。
要はかもられたのだ。それに気付いたギルベルトは、むしゃくしゃして物に当たってしまった。
とはいえ、さすがにアンリの所有物に直接当たったわけじゃない。たまたま遠くから蹴飛ばした石や木の枝が、思ったよりも勢いよく飛んでしまい、結果、弾かれた小さな鉢植えが木の幹に当たって粉々になったのだ。他にもドミノ倒しのようになってしまったものもあった。
なんで鉢植えがあんな軽いんだよ……。あ、もしかして魔法の何か?
あれってもしかして、めちゃくちゃ大事なものだったりする?
固まったまま、しばし冴えない頭で考えていたギルベルトだったが、
「あ……つーか、ここってアンリの家――」
思い至ったギルベルトは、弾かれたように羽を出して飛び立とうとした。
もちろん、逃げるために。
だがそれも叶わなかった。その一部始終を屋根の上から見ていた青い鳥 に現行犯で捕まったのだ。
* *
「ばかなんですか」
ラファエルは確認するように再度言った。
「俺は被害者だろ!」
「……はぁ、もう……あなたって人は」
不服そうに口を尖らせる一方で、ギルベルトは相変わらず焼き菓子を食べ続けている。
小さな欠片を口元につけたまま、冷めないハーブティを呷っては「あっち!」と漏らしたりもする。
……僕はこの品のない男のどこに惹かれているんだろうか。
たびたびそう自問してしまうものの、その答えはでないまま、結局想うことをやめられない。
ラファエルはそんな自分に密やかに息をつき、口元に寄せていたカップを天板に下ろした。
「――あ」
そこにひらりと、紙飛行機が飛んでくる。
内側からは指先一つ外に出せない窓から入ってきたらしい。
どうやら窓も一方通行なようだ。
「なんだそれ」
ラファエルがそれを手に取ると、気付いたギルベルトが僅かに目を丸くする。
ギルベルトは知らないようだが、ラファエルはそれが何であるかを知っていた。
それはカヤが作った魔法道具だった。
一見単なる折り紙だが、それで紙飛行機を作って飛ばせば目的の相手のもとへと飛んでいく。
これがあれば、届け手のいらない手紙のやりとりができる。
ラファエルは無言でそれを開いた。
『どちらかが相手の何かを口にしないと出られない部屋』
紙面に書かれていたのは、まったく理解できないそんな文言だった。
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