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18.魔法の訓練(2)
* * *
淫魔 のことはともかく、魔法使いとしてはカヤの方が血統 が上だ。サシャよりアンリの方が上ではあるが、カヤは幻とも言われる純血種なため比べものにならない。
そのためアンリはカヤに一つの依頼をした。
カヤがいなければ自分がやるしかなかったが、使えるものがあるなら話は別だ。
その点に関してはわりと最初からそのつもりだった〝魔法使いとしての修練〟を、予定通り、アンリはカヤに丸投 ……託していた。
以来、週一ほどのペースでジークはカヤに魔法を習っている。
「本は読めてる?」
「あ、はい。もうすぐ3周目が終わるところです」
「ひと月でそこまでできたら上出来だよ」
ジークはカヤと共にアンリの家から2キロほど離れたところにある湖の畔に来ていた。
そこには切り株で作られたテーブルセットがあり、その上に数冊の本が広げられていた。それらは全て魔法使い特有の文字で書かれた書物だ。
アンリのメモ書きなどは初見でも何となく分かったジークだったが、それならとカヤに渡された本の方はまるでちんぷんかんぷんだった。
魔法使いとしての能力次第では、頭で理解するより先に血が解読してくれるらしいが(カヤは全て血による解読ができる)、ジークのベースではそれも日常レベルの言葉までが限界だったようで、
「じゃあ次は……その本とは別に、こっちを翻訳できるようになろうか」
「はい」
そのためジークは、まずはその基礎に当たる部分――いわゆる文字の読み書き――を地道に辞書などを使って覚えるところから始めていた。
「多分、これくらい君ならすぐだよ」
ぱらぱらと開いて見せられた紙面には、一般的な人間の文字 が書いてあった。それを魔法使い特有の言語に書き直すのが次回までの課題らしい。
〝ジーク なら〟とカヤが言うだけあって、ジークは意外と筋は悪くない。並行して行っているコップの水を揺らす訓練も、程度はどうあれ、一週間ほどでできるようになっていた。
ちなみにカヤはお世辞にも人に教えるのが上手いとは言えない。
|カヤ《本人》がほぼ直感で全てを成り立たせてしまうからだ。
にもかかわらず、真面目に努力できる性分も手伝ってか、現時点でのジークの上達は平均より早い方だった。
「で……今日からは一応、こっちも」
言いながら、カヤが足元に置いていたものを拾い上げる。
ややして目の前に差し出されたのは、穂先が筆のような形をした一本の箒だった。
「箒……」
ジークは瞬き、開いていた本を閉じると残りの数冊と重ねて少し端に寄せた。
そして改めて箒 に向き直る。
「ちょうど昨日できあがったって連絡があったから」
頼んでおいた職人から――。
箒は魔法使いの必需品 なんだよ、とカヤは続けた。
そのわりに、ジークが知る限りカヤはいつも自転車(普通に地面を走ってくる)なので、そのせいかそこまでしっかりと結びついてはいなかったが、言われてみればアンリの家でも、アトリエの端に立てかけられているのを見たことはあった。
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