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18.魔法の訓練(3)

「はい。ちょっと持ってみて」 「あ、はい……」  促され、ジークは両手でそれを掴んだ。  それは確かに、カヤやアンリが持っているのによく似た、柄の長さがジークの身長ほどの箒だった。 「あれ……」 「?」 「ごめん、もう少ししっかり持ってみて」 「? こう、ですか?」  ジークは言われるままに柄を握りしめた。  けれども、カヤは「あれー?」と再度首を傾げるだけだ。 「君ならすぐにでもいけると思ったんだけどなぁ……」 「いける?」 「あぁ、うん。柄にね、名前が浮き出るはずなんだ」 「名前」 「所有印って言うか、そういう……ほら」  カヤは不意に片手をくるりと動かした。  するとその手の中に、別の箒が現われる。 「わ!」 「あ、これは転移魔法。一応、ちょっと難しいやつ……」  実際はちょっとどころではない高難度の魔法なのだが、カヤは物心つく前から使っていたためその難しさがよく分かっていない。アンリも一応使える魔法ではあったものの、ジークはそれをまだ(正気の時に)目の当りにしたことはなかった。 「すごい……」  素直なジークの反応に、カヤはどこか照れたみたいに笑いながら、「まぁとりあえず、ここ見て」と持っていた箒の柄のある部分をジークの方に向けた。  示された柄の先に近い部分には、〝Kaya〟という文字が刻まれていた。 「こんなふうに、君の名前が出てくるはずだから」 「そう、なんですか」 「うん。多分近いうちに。……恐らく。きっと。……そのはず……」  言いながらも、微妙に自信がなくなってきたのか、誤魔化すようにカヤの声が小さくなる。  かと思うと、それを更に誤魔化すように、一転、また明るい声が響き渡った。 「大丈夫! 君が魔法使いの血を持っているのは間違いないから。時間の問題!」 「は……はい」 「とりあえず毎日寝る前にぎゅってしてみて。で、無事名前が刻まれたら、教えて。次に進むから」  ぎゅってして、の意味は少々はかりかねるが……。  思いながらも、カヤの根拠のない(直感でしかない)自信に気圧され、 「わ、わかりました!」  気がついた時には、ジークは敬礼でもしそうな勢いで頷いていた。  *  *  *  カヤに箒を渡されてから、ひと月が過ぎていた。  しかしながら、近いうちに、時間の問題といわれたわりに、いまだに柄はきれいなままだ。  それに落ち込む一方で、ジークのアンリへの夜這いは続いていた。  いまだ本人はそれに気付かないまま……。 「……いい天気ですね」  昨夜もアンリの寝室(部屋)を訪れていたジークは、今日も嫌味なくらい清々しい心地で空を見上げる。なのにその声はどこか陰りを帯びているようにも聞こえ、カヤは切り株のテーブルに持参した焼き菓子を並べながら小さく首を傾げた。  恒例ともなっている、習練のあとのティータイムでのことだった。

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