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19.夢か現か(3)
「そういえば、淫魔 の血はアンリが見ているんだったね」
「あ、はい。診てもらっています……」
アンリはカヤのことは(態度はどうあれ)信頼しているようだったので、全て知られていても不思議はないと思っていた。むしろ知っていると思っていたからこそ、あんな切り出し方になってしまったも同然だった。
ジークが頷くと、カヤはカップを下ろして僅かに首を傾げた。
「っていうか、淫魔って……そもそもそんなに性欲旺盛なものなの?」
「え……」
「ごめん、俺、淫魔の知り合いって、アンリくらいしかいなくて」
「…………え?」
「え?」
「――――えっ……」
カヤとジークが、同時にぱちりと瞬いた。
「…………え、えっと」
束の間、妙な沈黙が流れた後、先に口を開いたのはジークだった。
「アンリ先生って……淫魔なんですか? 魔法使いじゃないんですか?」
「え……っ。う、うん……魔法使いであり、淫魔でもあるっていうか……?」
「そ…………そう、だったんだ……」
「そうだったんだって、君……もしかして、本当に――」
「初耳、です…………」
「え――――……」
カヤはハハ……と乾いた笑い声を漏らしながら、「ま、まぁだからって何が変わるわけでもないしね……?」と、一瞬リュシーに視線を投げる。その目はどこか助けを求めているようでもあったけれど、当然のようにリュシーはそれをスルーした。
(……まぁ、別に今更構わないとは思うけど……)
ただ、今後何かのネタにはされるかもしれないな。残念だけど……。
微妙に挙動不審になったカヤと、静かに呆然とするジークの背後で、リュシーは小さく肩を竦めた。
その時のことを思い返していたら、いつのまにか眠気が下りてきていた。そんな夢現のまどろみの中、ジークの頭をふと過ったのは、
(あれって……)
カヤから聞いたことを、アンリにはまだ直接確認はしていない。
けれども、本当にアンリが自分と同じ血を持っているのなら……。アンリも淫魔であるというのなら。
あれも全てそのせいだったということだろうか。
そう思うと、どこか腑に落ちる感じもした。
ギルベルトに触れられるのは嫌で……アンリはそれほど嫌じゃなかった。
そこには少なからず気持ちが関わっているのだろうかと思っていたけれど、本当は単なる〝種族特性〟と言う言葉だけで片付けられてしまうものなのかもしれない。
だとしたら……。
正直ほっとする。
ほっとするけど、何だろう。
ちょっと寂しいような感じもする。
……いつかその真相も聞けるだろうか。
茫洋と思いながら、ジークは甘く温かな夢の深淵へと落ちていった。
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