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♥19.夢か現か(8)
* *
「もっとしっかり腰を落とせ……忘れたのか」
「は……はひ、ぁ……ん、ん……っ」
ジークは舌足らずな吐息を漏らしながら、アンリの腰に跨っていた。ベッドの上に座ったアンリの中心に、対面したままゆっくりと腰を下ろしていく。アンリの肩に片手を置いて、他方で自らあわいを開き、
「ぁ……っ入ら、な……」
必死にその先端を飲み込もうとするが、それがなかなか上手くいかない。
すでにこれまでに何度もやってきたことなのに、どうして今夜に限ってできないのだろう。
アンリの硬度は十分だし、すでに何度も穿たれているそこが今更受け入れられないはずがないのに。
「で、でき、な……」
もどかしく思いながらも、ジークは食みかけては逃すそれに弱音を漏らす。
「……お前」
そこでふとアンリは気づいた。
いつからか、ジークがアンリの目を直視しなくなっている。
あんなにも誘うように蕩けた眼差しを向けてきていたのに、目端を赤く染めたまま、どこか逃げるように視線が逸らされていた。
「私を見ながら入れてみろ」
「ぁ……それ、は……」
直接促してみても、やんわりと拒否られる。恥じらうようにゆるりと首を振られてしまった。
先ほどまでと様子が違う。
これも薬の効果だろうか。それとも、そうやって相手を翻弄しようという雌型の習性 でもついてきたのか――。
アンリは見定めるよう目を細め、片手でジークの顎先を捕らえた。
もちろん、後者だったとしてアンリが黙って翻弄されてやるはずもない。
「私を見ろ」
「っ……」
逆らいきれず、ジークの目がアンリに向く。
視線がかち合うと、戸惑うように瞳が揺れた。
「見ながら入れろ」
「で、できない……」
今度ははっきり断られた。
アンリは目を眇め、不意に顔を近づける。
そのままあえて甘く口づけると、ジークは一瞬目を瞠ったものの、それから逃げることはしなかった。どころか、次には自分からも追うように唇を開き、舌を絡めてくる。
なるほど、できないイコール嫌なわけではないらしい。
「――ジーク」
アンリは唇を触れ合わせたまま、名前を呼んだ。差し伸べてくる舌を食み、唇を舐めながら、と同時に、浮かせたままだった腰の狭間を、示すように先端で躙る。
「あ……!」
「ほら、ここだ。いつも喜んでやっていたことだろう」
上擦った吐息を漏らす唇を揶揄うようについばみ、アンリは宛がった屹立で窪みを押し上げる。
その中心が微かな水音と共に口を開けると、とたんに目の前でとろけていた瞳が大きく揺れた。その反応がますますアンリの加虐心を煽る。
「あ、んんっ……」
「……私と駆け引きでもするつもりか」
アンリはジークの腰に添えていた手に力を込めて、かと思えばそのまま手本でも見せるかのように泥濘 を広げていく。
そのまま嵩の張った部分が通り過ぎるまで一気に貫くと、ジークは怖いように声を上擦らせた。
「ひぁあっ……や、やめ……っ、待……!!」
――やめろ?
待てだと?
半ばまで埋められたそれに、たまらないように背筋をわななかせながらも、ジークはやはり自分から腰を落とそうとはしない。
そのくせ繋がりを解こうともしないその様に、アンリは双眸をぴくりと細めた。
「――ジーク」
唇の隙間から直接注ぎ込むように、再度彼の名前を口にする。その瞬間、虚ろだったジークの瞳に光が戻った。
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