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♥19.夢か現か(9)

「…………えっ……」  アンリの唇にジークの吐息がかかる。  ジークは瞬き、近すぎる距離にあるアンリの顔を認識すると、 「えっ……えぇ!?」  とびすさるような勢いで上体を後ろに退いた。もちろん、そのままアンリの傍から離れるつもりで。 「あ、っえ、ん……っ!?」  けれども、中途半端とはいえすでにアンリと繋がっている身体がそれを許さない。骨が軋むほど背を反らしても、それ以上の距離はとれなかった。  しかもアンリの片手はジークの腰に添えられたままなのだ。当然のように、その力が緩められることもない。 「えぇっ……な、なん……っ」  ジークは激しく動揺した。  現状に頭がついていかない。それでもいま、自分の身体がどうなっているのかだけはほどなくして理解する。  気がつけば下着一枚身につけていない。一糸まとわぬ裸体を惜しげもなく晒している。晒しているどころか、嫌がるふうもなく足を開き、アンリの上に跨がって、更には自分のに、彼のが……。 「ええぇええっ、えああぁっ、ええぇえ……!!」  たちまちボン、と音がしそうなほど顔が真っ赤になる。  アンリの期待した薬効が出たのだろう。ジークは完全に正気を取り戻したようだった。  とたんに動転し、身動げばうっかり接合部から水音がして、妙な震え声を漏らすその姿にアンリは密やかに口端を引き上げる。 「どうした。早く腰を落とせ」  アンリは何食わぬ顔して先を促す。あくまでも平然と、腰を捕らえている手にじわじわと力を込めつつ、仰け反ってさらされた眼前の喉元に唇を寄せる。 「ひぇあっ……! あ、ちょ……っ、ちょっと待ってくださ……!!」  ジークは慌てて首を振り、アンリの身体を押し返そうとする。紅潮した頬を更に色濃く染めて、必死に腕を突っ張るが、 「んぁ……っあ、や、何……っ」  そうして逃げようとするたび、意に反して内壁はアンリを締め付け、焦れったいように腰が揺れる。  屹立は萎えることなく反り返り、垂涎するかのように雫をこぼす。言葉とは裏腹に今にも膝を折ってしまいそうで、ジークは「違う」とばかりに首を振った。 「お前が自分から始めたことだろう」 「え……っ、え?」 「こんな時間に……寝込みを襲いに来たのは誰だ」 「お……俺が……? アンリ……さんの、寝込(ねこ)……? ひぁっ……!」  信じられないと真っ赤な顔のままアンリを見返すが、その隙を突くように腰をぐっと押さえられる。  ぐちゅりと響く音と共に、更に奥へと埋められる質量にジークは背筋をわななかせた。 (う、嘘だ……、俺が、アンリさんを……なんて、そんなこと……っ)  半端な膝立ちに、だるくなってきた大腿が震える。すぐにでも腰を落としてしまいたいのに、手放せない理性がその邪魔をする。  その一方で、相変わらずアンリをくわえ込んでいる環はひくつき、隘路は誘うように蠕動してしまう。どんなに意識がはっきりしようと、身体の奥へと灯り続ける熱が冷めたわけではないからだ。  ……いや、冷めるどころかいっそう欲しいみたいに胎内(なか)は疼くし、そのたびに張り詰めた充溢からもとろとろと蜜があふれてくる。 (何で……だって俺、ここのところずっと……)  不自然なくらい性欲がない(そう言う気分にならない)と、カヤに相談したくらいだったのに。 「やめたいならやめればいい」 「え……っ」  ジークは瞬いた。 「やめたいならな」  言うなり、アンリは手を離す。

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