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♥19.夢か現か(10)

「ぁっ……!」  支えをなくしたジークはよろめきそうになり、とっさに触れていたアンリの肩を強く掴む。  アンリが目を眇めたのに気づいてすぐに手を放すも、そうするとまたバランスを崩し、ますます慌てる羽目に――。  その結果、 「わっ……!」  ぐらりと後ろに上体が倒れそうになり、それを堪らえようと伸ばした腕が、再びアンリの首へと伸ばされる。 「あっ……んん!!」  次の瞬間、ジークはアンリに自ら抱きつくようにして、そのまま腰を落としていた。 「ぁ、あ……っあ、嘘……っ」  しかもそれに合わせて白濁が散ってしまった。  挙げ句、達してもなお勝手にゆらめく腰が止まらない。  まるで頭と身体が解離してしまったかのようだ。だがそこにある感情は、悲しいとか怖いとかよりも、ただただ信じがたい……要は〝恥ずかしい〟に尽きる。  だって自分がどう思おうと、身体はこんなにも善がってしまう――……。 「違……っ、そんな」 「何が違う」 「ぜ、全部……っ」 「全部? 何も違わない。それがお前だ」 「そ、な……っ、や、ぁ、んんっ……」  目端も頬も耳も首筋も真っ赤にしながらふるふると首を振る。そのくせ自分から抽挿を促すように動いてしまう。  あまりの羞恥に滲む涙が、アンリのガウンの肩口を濡らす。このアンリにしがみつくような格好もやめなければと思うのに、そうして顔を見られるのはもっと恥ずかしい。  認めたくはないけれど、きっとはしたなく蕩けた顔をしているから。多分、記憶にある前回よりも、もっと、ずっと。  小柄とも華奢とも言えない自分が、女の子みたいに抱かれて、こんなにも気持ちよくなっている。そんな表情、とても人様の目にはさらせない。  ひどく今更なことに葛藤してしまうのは、もちろん今夜のような|夜這い《状況》に関する記憶がジークの中にないからだ。  ジークからすれば、発情したのはここに来てすぐの2度だけで、後に森で多少の兆候はあったものの、薬を飲むことでちゃんと抑えられたという認識しかない。  それ以外には何もない――先日薬を変えてからというもの、いたって平穏な日々を過ごしていたつもりだったのだ。 (それが何で、こんな、突然……っ)  最初はジーク(自分)の部屋かと思った。何故発情(ヒート)中でもない自分の部屋にアンリがいるのかと――。  けれども、目が慣れればすぐに分かった。  ジークも掃除のために何度か入ったことがある、ここは確かにアンリの寝室だ。  この期に及んでアンリが嘘をつくとは思えない。  ということは、ジーク自らこの部屋に来たというのに間違いはないのだろう。  ……そう頭では思うのに、どうしても腑に落ちない。  だってあんなにも状態は落ち着いていたのだ。ここ二ヶ月ほどは、自分で慰めようと思うことすら一切ないほど清らかな生活を送れていると思っていた。 「あっ……あの、これ、俺……ひ、ヒート……なんですか……?」  となれば、考えられるのは一つしかない。  ジークが自分の意思以外で人肌を求めてしまったとすれば、答えはもうそれ以外に考えられなかった。 「恐らくな」 「お、恐らくって……っ」 「私にもよくわからん。お前の症状は私の持つデータにない」 「え……っそ、それって、どういう……?!」  ぎゅっとアンリの首に抱きついたまま、それでもどうにか理性的に言葉を紡ぐ。  身体の疼きはまるで止まらないものの、妙に冴えた頭がそれを可能にさせていた。 「あぁっ、あ、や、待……っ。まだ、動かないでくださ……!」 「動いているのはお前だろう」 「っ! そ、そんな、はず……っ」  平然と返され、改めて意識する。

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