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20.束の間の(1)
何度も|注《そそ》がれた熱に溺れて、空が白んできた頃にようやく|戒め《リボン》が解かれた。そうして、堰を切ったように白濁を|迸《ほとばし》らせたところで、ぷつりと記憶が途切れている。
ただし、薬の効果もあるのだろう。それまでの――薬を飲まされ、覚醒してからのことは信じられないくらい鮮明に覚えていた。
(……俺、…………)
〝出さずとも〟の先を、ジークは身をもって知った。
出さずに、とは、文字通り吐精せずに達することだった。
それをあの夜、くどいくらいに叩き込まれて、終いには半ば挿れられているだけで達きっぱなしになっていた。
(あんな……あんな)
思い出す度、勝手に顔が赤くなったり蒼くなったりしてしまう。
当面はアンリの姿を見ただけで、羞恥のあまり腰が砕けそうになっていたくらいだ。
……もちろん、アンリの方はまるで何事もなかったように平然としていたけれど。
◇ ◇ ◇
(っていうか……あれって、もしかしたらアンリさんも、|発情期《ヒート中》……だったりしたのかな……?)
就寝前、ジークはいつかのように見慣れた天井をぼんやり眺めていた。
確かにあの日のアンリは執拗だった。察しがいいとは言えないジークでもそう違和感を覚えるくらい、触れ合う肌から伝わる体温も熱かった。
挙句――。
いつもお前に付き合ってやっているのだ。たまには私に付き合え。
と、|揶揄《からか》うように囁かれたあれも夢ではない……。
カヤからアンリも淫魔の血を持つと聞いてはいたものの、その確認まではできていなかった。けれども、あの日のアンリはやはりそのせいだろうとしか思えなかった。
(本当に、淫魔……なんだな、アンリさん……も……)
結局は同じ血を持つ者だから――ということなのかもしれない。
|アンリ《本人》からはっきり告げられたわけでもないのに、それは徐々に確信めいたものに変わっていった。
◇ ◇ ◇
あの夜からまもなく、服用する薬が変わった。
例の媚薬を参考に作られたという、青い薔薇の成分が入った薬に変更になったのだ。
すると嘘みたいに夜這いもなくなり、結果としてリュシーの寝不足も解消された。
ちなみに、あの日も最後には意識を手放してしまったため、目が覚めた時には既に身体は就寝前の状態に戻されていた。
ただし、その日は前夜の記憶があった。
そこでようやくジークは気付いたのだ。
これは誰かが――恐らくはリュシーが――、自分の意識がない間に、事後処理をしてくれたということなのだろうと。
しかも、アンリの話によると、記憶がないだけでそれまでにも似たようなことが何度も繰り返されていたらしい。いや、繰り返していたのは|ジーク《自分》なのだが、要は自分が特に爽やかな朝だと思っていた日こそ、リュシーが大変な目に遭っていた日だったというわけだ。疲弊するのも無理はない。
それを知ったジークは蒼白となり、リュシーと顔を合わせるなりとにかく謝罪した。危うく土下座する勢いで床に座り込んだジークに、リュシーは束の間呆気にとられたものの、すぐさま「気にしないでください」と顔を上げるよう促した。
……やっぱりリュシーさんは優しい。
ジークは心を震わせながら、きっともう彼には頭が上がらないと思った。
そしてリュシーの体調が回復して本当に良かったと涙を浮かべたのだった。
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