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20.束の間の(2)

 ◇ ◇ ◇  それから二ヶ月ほどが過ぎ――。  その頃には、ジークも改めて魔法の修行に専念できるようになり、魔法使いの文字の読み書きについても、一定の水準はとっくに超えたと言われるまでになっていた。  箒に関しては努力のかいなく、依然として何一つ文字は現れていなかったものの、カヤの励ましもあってか、当人の気持ちは総じて落ち着いていた。  ……唯一、不意にあの夜のことを思い出して、一人挙動不審になることもなくはなかったが、かといってそれが|発情《ヒート》の引き金になるようなこともなければ、悪戯にフェロモンが漏れ出すような事態を引き起こすこともなかった。  要するに、この二ヶ月の間、ジークは一度たりとも人を誘うことも、襲うこともなく、|発情《ヒート》の兆候すら一切見せなかったということになる。  だからと言って、先日のように性欲が全くなくなった(正確には夜這いで発散していたのだが)というわけでなく、いわゆる健康的な成人男性――普通に自分で処理できる――程度のものは残っていた。  それがかえって良かったのかもしれない。  だって潜在能力覚醒の儀式を受ける前までは、ずっとその状態が当たり前だったのだから。  ◇ ◇ ◇  とある日の昼下がりのことだった。 「あ……っ」  コン、と音を立てて、ジークの足元に一つの木箱が落下した。  ジークの部屋に積まれていたアンリの積み荷の一部が崩れそうになっており、それを直していた時のことだ。  木箱は20センチ四方くらいの簡素なもので、落とした拍子に蓋が開いて、中身が少し飛び出ていた。 「良かった、壊れてない……」  ジークは慌ててそれに手を伸ばし、不具合がないのを確認する。  高めに掲げて最後に底を見ていたら、ずれていたスライド式の蓋の隙間から、覗いていた中のものが数枚落ちてくる。  ひらひらと軽やかに舞い、床の上で僅かに滑ってとまったそれは、 「……羽根?」  透明感のある青色をした、3センチ前後の小さな羽根だった。  記憶にない夜這いの日に、ジークが無意識に拾っていたリュシーのものだ。 「あぁ……それ」  そこに扉の方から声がかかる。  箱を持ったまま視線を向けると、そこには洗い立てのジークの着替えやシーツなどを抱えたリュシーの姿があった。 「言うの忘れてました。一応、それ、あんたのポケットから出てきたものだったので」 「俺のポケットから、ですか?」 「はい」  淡々と頷きながら、リュシーは持っていた荷物をベッドの上に下ろし、それから床へと落ちていた羽根を一枚拾った。 「……なんですか」  何気なくそれを眺めていると、ジークがその様子をじっと見つめているのに気づく。 「いえ……なんか、似合うなと思って」 (似合う……)  実際、|リュシー《自分》が落としたものなのだから、当然と言えば当然だ。  だがジークはまだそのことを知らない。  アトリエの鳥かごも、いまだにいつも空だと不思議がっているくらいだ。 「本当は捨てようかとも思ったんですけど……まぁ、一応、と思って」 「捨て……っ、そんな!」 「でも、それを何で集めてたとか……あんた自身、何も覚えてないんでしょ」 「そ……れはそうですけどっ……」 「だったら……」 「いえ! 良かったです、置いといてもらえて!」 「……そうですか」  よくわからない……。  思いながらも、リュシーは「じゃあ、どうぞ」と手の中の羽根を差し出した。 「ありがとうございます」  ジークは笑顔で礼を言うと、先に自分が持っていたものを丁寧に箱に戻してから、そっとそれを受け取った。

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