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20.束の間の(3)

「……きれいだなぁ」  ジークはふわふわとした羽根を目の上に掲げ、透かし見るようにしながら微笑んだ。  その表情はあまりに嬉しそうで、幸せそうで……そしてある意味ゴミとも言えるそれを、ばかみたいに大切そうに扱うその手つきに、 (おめでたいやつだな……)  思いながらも、何だかリュシーまで擽ったいような、照れくさいような心地になってしまう。 「俺……これどこで拾ったんでしょうか。……あ、隣の……アトリエの鳥かご――」 「あとで買い物付き合ってもらえますか」 「えっ……あ、はい」 「今日はちょっと荷物が多いので」  リュシーは言葉を遮るように言って視線を逸らした。  何か調子が狂う……。  そのなんとも言えない気まずさに、思わずそのまま|踵《きびす》を返す。 「出かける用意ができたら声かけてください」  そして最後にそう言い残すと、後は振り返ることもなく部屋を出る。 「……何か急ぎの用事でもあったのかな」  ジークは瞬き、独りごちる。  見送る背中に慌てて返事はしたものの、それにもリュシーは何も応えてはくれなかった。 「えっと……とりあえず、準備」  ややして思い出したように頷くと、ジークは持っていた羽根を箱に戻し、気持ちを切り替えるように背筋を伸ばした。  ◇ ◇ ◇ 「毎日寝る前にぎゅってしてみて」  カヤに言われた言葉を思い出しながら、ジークは就寝前、いつものように窓際へと立てかけてある箒にそっと触れる。  専門の職人の手により心を込めて作られたという魔法使いの箒。その滑らかに仕上げられた|柄《え》を両手で掴み、一つ息をつく。  胸の前に引き寄せ、そのまま抱き締めるように力を込める。それから静かに目を閉じる――。  ……。  …………。  ………………。 「……だめか」  その手の中で、箒がじわりと熱を帯びるような感覚はあるのだ。  けれども、何度試してもそこには何も現れない。フルネームどころか、線や点すら……。  俺には魔法の才能がないんだろうか。  読み書きは比較的すんなり合格がもらえたけれど、その次に会得するべき飛行魔法にこんなにも苦戦している。箒に名前が刻まれたからって、すぐにびゅんびゅん空が飛べるわけでもないらしいのに。 「個人差があるのが普通だから。大丈夫。一年かかった人もいるしね!」  カヤが明るくそう言ってくれるから、そこまで焦ってはいないけれど、その一方でさすがにそろそろ少しくらい……とも思ってしまう。 (……そうだ。明日アンリさんにも聞いてみよう)  もしかしたら、何かヒントというか、コツのようなものを教えてもらえるかもしれない。  ここのところ不在がちだったアンリだが、明日は1日在宅だと聞いている。  今週は所用で来られなかったカヤも、来週は予定通りに来られそうとのことだった。  できればそれまでに少しでも進展させたい。一文字でもいいから、|名前を刻む《成果をあげる》ことができたなら……。 (もしかして、あれを気にしてるからかなぁ……)  箒を見つめるジークの頭を過るのは、恐らく自分は飛行魔法にはあまり向いていないということ。  だがそれは今言っても仕方ないし、その時になってみないとどうなるかはわからない……と思い、ひとまず飲み込んでいる。  だってとにかくまずは魔法使いとしてのレベルを上げたかったから。そうすれば、きっとそれだけ騎士団に戻れる日も近くなるはず。  幸い、今は淫魔の血も落ち着いているし……って、そうだ、その辺りの話も一度アンリさんに直接聞いてみようと思っていたんだった。

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