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20.束の間の(4)

 以前カヤに相談した時は、結局話が違う方向に流れてしまったし、そもそもその時の内容は、今思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしい|勘違い《もの》だった。  となると、それこそアンリに聞けるはずもなく、そのままになっていたのだけれど。  自分はいつ騎士団に戻れるのか。  このままアンリの薬――例えば今の――を飲んでさえいれば、淫魔としての症状は抑えられるのか。逆に飲み続けなければ平穏な日常は送れないのか。  そしてそれは、一生続くものなのか――。  考えてみれば、聞きたいことは山ほどあった。  淫魔だとか、発情期だとか。それも男なのに|雌《メス》型……だとか。  突然突きつけられたそれは、いまだどこか他人事のようだったけれど、それでもちゃんと受け止めて、付き合っていかなければならない現実だということはさすがにジークも理解していた。……頭では。  ◇ ◇ ◇  食後にはいつもリュシーがその日に合わせてブレンドしたハーブティーを用意する。  そこには当たり前のようにお茶菓子も添えられており、それをアンリが一つ食べ終えるのを見届けてから、ジークは思い切って口を開いた。  翌朝のことだった。 「あ、あの――」 「失礼します」  けれども、それは半ばで掻き消され、と同時に開いたドアの前に立っていたのは、ラファエルだった。 「ちょっといいですか」 「いって! ちょっ……離せって、このボケ!!」  アンリの返事も待たずに、ラファエルが部屋に入ってくる。  その手がドアの外から引っ張り込んできたのは、ぎゃーぎゃーと騒がしい褐色の肌の男――。 (あ……この前の)  ジークは先日、花の蜜を集めに入った森の中で二人に会っていた。  記憶に残っていたそれを思い出し、小さく瞬くと、 「何の用だ」  テーブルの向かい側で、面倒くさそうに息をついたアンリに目を戻す。 「すみません、ちょっと外に出ていた間に……」  次いで聞こえて来た声は、またしてもドアの方から。  再びジークが視線を向けると、少しばかり慌てたように顔を覗かせていたのはリュシーだった。  リュシーはこの後、家の周りの草抜きをしようと思っていた。その準備のために席を外していたのだ。  結果としてその隙に、なんの取り次ぎもなくラファエルが独断で部屋に上がり込んでしまった。ギルベルトを連れて。……いや、引きずって。 「あぁ、リュシー。すみません、一応声はかけたんですけど……ちょっと急いでいて」 「もういい。いいから要件を言え、ラファエル」  アンリが先に口を挟むと、リュシーはひとまずほっとしたように息をつく。それから無言のままテーブルの上に置いてあったポットを回収すると、キッチンへと消えた。 「失礼します」  ラファエルはギルベルトの後襟を掴んだまま、テーブルの傍まで足を進めると、 「おはようございます。えっと、ジーク……であってますよね」 「あ、はいっ」  声をかけられ、弾かれたように顔を上げたジークに、きわめて害のなさそうな笑みを向けた。  片手はしっかりとギルベルトの服の後襟を掴んだまま――。

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