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20.束の間の(5)
「いいからまず離せっての! そもそも俺は関係……」
「本当だ、今は特に影響ないんですね」
ギルベルトの言葉を阻むようにこぼしつつ、ラファエルはジークをじっと見つめる。
ギルベルトは腹立たしげに舌打ちを漏らし、振り払うようにしてラファエルの手から離れた。
「だからさっきからそう言ってんだろうがっ」
吐き捨てるように言って、ギルベルトは勝手に空いていた椅子に座る。何気なく巡らせたその目が捕らえたのは、テーブル中央に置かれたかご盛りの菓子だった。
早速手を伸ばす様子にアンリは呆れたように目を細めるも、特に諫めるようなことはしなかった。それすら面倒に思えたらしい。
「あ、ど、どうぞ」
そこでジークがはっとしたように立ち上がる。
この円形のテーブルには、常備されている椅子が三つしかないため、自分が座っていてはラファエルが座れない。
椅子から下がったジークは、改めてラファエルに座面を示した。
リュシーが入れたハーブティーはジークも飲ませてもらっているので、食後にアンリと二人でしばらくテーブルについていることも多かった。その背後に給仕のタイミングを待つリュシー。場合によりリュシーは席を外しているが、いつのまにかそんな光景が当たり前になっていた。
ちなみにそのささやかな時間を、ジークは密かに気に入っている。
「俺、席外します」
ジークは背筋を伸ばし、更に一歩後ろに下がった。
そのままぺこりと頭を下げて、足早に扉の方へと歩いて行く。
廊下に出ようとしたところで戻ってきたリュシーに「|草抜き《外》手伝います」と小声で告げ、後はその脇をすり抜け、急くように部屋の外に出た。
◇ ◇ ◇
先に外に出たジークは、まずは家の壁際に沿って手を入れていくことにした。
日陰での作業だからと、フードも手巾も被らず軽装のまま、ひとまず黙々と目につく雑草を抜いていく。
この辺りの気候は、一年の四分の三ほどは比較的寒暖差の少ない穏やかなもので、季節で言うと、冬だけ少々厳しかった。結構な積雪があり、人の往来自体難しくなるため、うち|一月《ひとつき》前後はほとんどの人が冬籠もり状態で過ごすことになる。
そんな厳しい冬がくるまでにはまだ少しあるが、そうは言ってもここにきてもう数ヶ月もの時間が流れている。
せめて冬籠もりとなる前に騎士寮に……騎士団に戻りたい。
だがその相談は、また後日ということになりそうだ……。
(っていうか……ラファエルさん、だっけ。用事って……俺の話かな)
リュシーは予定外の客人のもてなしにしばらく手を取られるだろうから、その分、自分が頑張らなければ。
思いながらてきぱきと手を動かしていたものの、その一方でさっきのラファエルの反応がずっと気になっていた。
ラファエルが連れてきた人物も、名前は知らないが面識のある相手だった。
初めて発情したと思われる日、寮のルームメイトから言われたように、やたらジークのことを〝匂う〟と言ってきた、恐らくは純粋な人間ではないのだろう風貌の男……。
(とりあえず、今度会ったら名前くらい教えてもらおう……)
どこか外れたことを考えながらも、ジークは更に記憶を辿った。
「っていうか……俺……」
彼らに会った時、ジークはいつも発情の兆しを見せていた。
だがその間ずっと酩酊状態にあったわけではないので、途切れがちながらも思い出せることは多い。
そこでふとあることを思い出す。
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