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あの頃2

「初めまして。俺、真志喜です。あの、良かったら一緒にデートでもどうですか?というかまず連絡先交換しましょう」 「あ、あの…っ?」 「いい加減になさい真志喜。お客様に失礼です」 慌て出すお人形さんに、「あ、奥手タイプか」と気づきナンパの仕方を変えようとすると、後ろ襟を掴まれグイッと引っ張られた。 抗議しようと振り返ると、間近から絶対零度の視線を向けられ大人しくする。 清さんが怒ると怖いのは、今までの経験で体が覚えていた。 「すみません。この駄犬がとんだ粗相を」 「清さんひでぇ!」 「あ、いえ、あの…」 「正嗣さんのところへご案内したと聞きましたが、お一人でどうなさいましたか?」 は?なんで正嗣?と俺がポカンとしていると、表情で読み取った清さんが答える。 「真志喜はあまり本邸にいないから、知らないのも無理ないですね。この方は、正嗣さんの恋人さんですよ」 「は?……ぇ、えぇ!?恋人!?」 知らなかった。 まったく気がつかなかった。 あの野郎に恋人がいただなんて。 しかもこんなに可愛い子! 「嘘だ嘘だ…、そんなの嘘だ…」 「ほら。絶望してないで早く謝りなさい」 「あぁいいですいいです…!少し驚いただけなので…!」 そうして笑みを浮かべるお人形さん。 くぅ、やっぱ可愛い…! 「初めまして。俺、(なる)(さわ)彼方(かなた)です」 ペコリと頭を下げる彼に、俺も慌ててお辞儀を仕返すのだった。

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