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あの頃3

「ご迷惑をおかけしてしまって、すみません…」 「いえいえ。ここは広いですから、迷われるのも無理ないですよ」 ペコペコ頭を下げる彼方に清は穏やかに微笑む。 どうやら彼方はお手洗いを借りたはいいものの、そこから部屋への戻り方が分からなくなってしまったようだった。 「昔からどうも方向音痴で…。仕事で遠出する時とか、もう困っちゃって…」 「それは大変ですね。成沢さんは、確か和菓子屋さんを経営してるとか」 「いやいや。確かに後を継ぐ気はありますけど、経営面ではまだまだ半人前で…。父親も母親もバリバリ現役で働いていますよ」 そう言ってほわんと笑みを浮かべる彼方は、とてもヤクザの若頭と関係を持っているとは思えない。 それにこうして可愛い彼が見た目通り愛くるしい言動を取るのを見ていると、妙に安心するのだ。 それは清と同じ若頭補佐の、見た目と言動がチグハグな青年が原因であるのだけど…。 「あの子も愛嬌というのを覚えれば、もう少し上手くいくでしょうに…」 「?」 溜息をつく清に、彼方は首を傾げた。 当の本人は先程、名残惜しくも用事の為に別れている。

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