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あの頃6
少年は名を「真志喜」と名乗った。
それからは徐々に心を開くようになり、口数は少ないものの話ができるようにもなった。
迅が恐る恐る真志喜の頭に手をやれば、特に嫌がるでもなく大人しくして、頭を撫でるのも許すようになった。
しかしそれは迅だけに限り、他の人間が部屋に入ろうものなら以前のような凶暴な獣と化してしまう。
周りはてんで懐いてくれない真志喜に嘆いていたようだ。
それからまた暫くして、徐々に周りにも真志喜は心を開いていった。
迅が側にいる時に限り、誰かが部屋にやって来ても拒絶しなくなった。
タイミングを見計らって、迅は真志喜を連れて部屋の外に出た。
風呂以外では滅多に外に出ない真志喜を連れて、彼の行ったことがない場所まで一緒に歩いて行く。
真志喜は迅の服をキュッと握って、後ろをトテトテついて歩いた。
「真志喜、ここが中庭だ。すごく立派だろう」
コクリと真志喜が頷く。
それだけで迅はどうしようもなく嬉しくなるのだった。
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