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あの頃8
「ねぇねぇ彼方さん。やっぱ今度デートしようよ。そうしよう?」
「おい。恋人の前でいい度胸だな」
「あ、あの…」
「へーきへーき。浮気の1つや2つ、どーってことないって」
「おいッ」
彼方の隣に座っている正嗣が真志喜を睨みつける。
若頭である正嗣に鋭い視線を向けられても動じない真志喜は、頬杖をついて唇を尖らせた。
「マジで信じらんねぇ。あの正嗣にこんな可愛い恋人さんだなんてさぁ…。どの彼女さんとも長続きしたことないくせに」
「お前は余計なことしか言えねぇのか。つくづく失礼なやつだな」
「彼方さん。正嗣と別れたらすぐ俺のとこにおいでね。慰めてあげるから」
「真志喜!」
遂に身を乗り出そうとする正嗣を彼方が必死で宥めていると、再び襖が開いた。
そこに立っていた人物を見るなり、真志喜は「ゲッ」と盛大に顔をしかめる。
「あー久しぶりの真志喜だー…」
「久しぶりって3日しか経って……、うわやめろバカ!」
強引に抱き寄せられて頬擦りをされる真志喜は、「ぎゃー」と悲鳴を上げる。
そんな光景をポカンと見つめていた彼方に、清は一切動じた様子もなく口を開いた。
「この男が話していた迅です」
「えっ。こ、この人が迅さん…」
「ははっ。イメージと違ったか?」
可笑しそうに笑う正嗣に、彼方は「うーん…」と首を傾げる。
目の前では後ろから抱きしめた迅の腹に、真志喜が肘をめり込ませていた。
「…おふたりって、仲悪いんですか…?」
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