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大好きな人3

後ろ座席に積まれた大量の荷物(殆どが服)が、車が揺れるたびガサガサと音を立てる。 予想通り疲れ果てた俺は、高級車を運転する迅の隣でポケーっの外を眺めていた。 俺は人が大勢いる場所はあまり好きではない。 すぐ人酔いするし、単純に苦手でもある。 でも迅はいつもお構いなしに、俺を色々なところに連れていくから困るのだ。 迅は俺をどこかに連れていくことが好きだ。 そういえばガキの頃。初めて俺を中庭に連れていったあの時も、迅は心底嬉しそうな顔をしていた気がする。 もしかしなくても、あれが全ての始まりだろう。 家に帰ったらすぐに寝ようと心に決め、トンと窓に頭をくっ付ける。 しかし次には俺はピタリと動きを止めていた。 見慣れたクリニックの看板と自動販売機に、あることが結び付く。 この道って…、そうだよ確か! 「? 真志喜、どうし…」 「ここ、(なぎ)さんのカフェに近いよな!?」 「え。あ、うん…」 「なら行こう!今すぐ行こう!なっ、いいだろっ?」 一気に無邪気な子供のように目を輝かせ始めた真志喜に、迅はグッと押し黙る。 正直言うと迅的にはあまり行きたくはないのだが、こうも懇願されては断れない。 行きたくないのは、その凪さんが嫌いだとか、そういったわけではないのだ。 迅にとっても尊敬する学生時代の先輩なのだが…。   「……分かった。行こうか」 「やったぁ!」 心底嬉しそうにする真志喜に、早くもため息が漏れそうになる。 凪さんのことは嫌いではない。寧ろ慕っている。 でも真志喜といる時には、あまり会いたくはない人である…。

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