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陽だまり3

それからというもの、学校では横川と一緒にいることが増えた。 1人で歩いていたりすると、「日南くんっ」と駆け寄ってきたりする横川。 あまりに日南日南うるさいので、その苗字で呼ばれるのが好きではない俺が「その呼び方やめろ」と言えば、いつしか呼び名は「真志喜くん」になっていた。 その流れのように俺も裕介と呼ぶようになり、昼飯の時間なんかを一緒に屋上で食べるようになった。 こんな冬の寒い屋上、俺のような物好きしか立ち寄ったりしない。 ブルブル震えている裕介に無理はするなと言ったのだが、結局付いて来て服を着込み、その身を縮こまらせている。 そんな裕介を横目に見て、変なやつ…と思いながら清さんが作ってくれたお弁当を食べる。 やっぱり清さんの料理は世界一だ。 見上げれば一面青色の空が広がっていた。 俺は冬の空が好きだ。 カラッとしていて、見ていて清々しい。 「──真志喜くんって、凄いよね… 」 「は?」 隣で鼻をすすっていた裕介が、やがてポツリと呟いた。 いきなり何を言い出すのかと眉を寄せれば、裕介は困ったような笑みを浮かべて言葉を続ける。 「なんか…、いつも堂々としてるっていうか…。僕にできないことを、サラッとやってのけちゃうでしょ?」 「…別に、褒められることなんかしてねぇけど」 目のやり場に困って、再び空を見上げる。 晴天のそこには、真っ黒なカラスが一羽飛んでいた。 「僕…、自信がないんだ…。周りの目とかばかり気にしちゃって…」 「……」 「だから、こんなビクビクしてる自分が嫌いなんだ…」 力ない声は、風の音にかき消されそうだった。 俺は一羽で飛び回るカラスを見つめながら、静かに言う。 「俺は裕介のこと、嫌いじゃねぇよ」 「…っ!」 裕介がひゅっと息を吸ったのが分かった。 なんだか照れ臭くて、俺はカプッと卵焼きを口に含む。 また、裕介がグズっと鼻をすすったのが聞こえた。 「……ありがとう…」 涙声の言葉は、スッと、一面青く澄んだ空に吸い込まれていった。

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