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陽だまり6

ポタポタと、地面に血が滴り落ちる。 この血は自分の流すものか。 それとも先ほど殴り飛ばした誰かのものか。 初めの喧騒が嘘のように、その場は静まり返っていた。 周りには、俺が再起不能にしたやつらがゴロゴロ転がっている。 流石にこの数はキツかった。 最近は減ってきていた傷もあちこちにできて、みっともなくボロボロになってしまっている。 さっき頭を殴られたのは大きかった。 グラグラと視界がブレて、気を抜くと地面に倒れ込みそうだ。 そうだ…、裕介…。 ぼやけた視界に、座り込んだ裕介の姿を見つける。 痛む足を引きずって彼の元へ歩み寄り、大丈夫かと手を差し伸べようとした。 しかし…。 「ひぃ…っ!」 「…っ」 裕介の顔に浮かんだのは、紛れもない“恐怖”だった。 差し出した手はやり場をなくし、やがて静かに真志喜は手を下ろす。 「……ごめん」 小さくそう呟き裕介に背を向けると、真志喜は1人、その場を去るのだった。 ザーザーと雨が降る中、真志喜は濡れることも気にせず1人歩いていた。 正直、家に帰りたくない。 友だちができたと言った俺に、嬉しそうに笑った清さんの顔が。 最近怪我をしなくなったと喜んでくれたみんなの顔が頭に浮かぶ。 こんなボロボロの姿、見せたくない…。 小さな公園に立ち寄りベンチに腰掛けた。 すっかり暗くなった今、そこで遊ぶ子供は誰もいない。 「……」 なんだかもう、何もかもが空っぽだった。 頭を殴られたから視界はぼやけるし、裕介に拒絶され、悲しいのか腹立たしいのかも分からない。 そこにあるのは、深い喪失感だけだ。 そんな自分が酷く惨めに思えて、しかし嘲笑することすらままならない。 やっぱり俺には、周りと同じようになんて出来るわけがなかったんだ。 同じように、友だちを作ることなんて。 「──真志喜…?」 その時 頭上から声がして、雨がおさまった。 見上げれば、心配そうにこちらを見つめる凪さんがいる。 濡れなくなったのは凪さんの傘のおかげのようだ。 ぼやける視界の中で、凪さんの顔を見たら自然と体の力が抜けてくる。 「っ、真志喜…!?」 彼の呼びかけをどこか遠くに聞きながら、俺は意識を手放していた。

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