60 / 208

守りたいもの

殴りかかってきた男を蹴り飛ばす。 その直後に振り下ろされた鉄パイプを素手で受け止め、奪ったそれで相手を殴った。 ポタポタと額から流れた血が頬を伝い、地面に落ちる。 無理な受け止め方をした掌は、骨をやってしまったかもしれない。 それでも、背後にある鉄扉には指一本触れさせるわけにはいかなかった。 その奥にいる凪さんは、無事だろうか。 頭を殴られたのだ。本当なら1秒でも早く病院へ連れて行きたい。 凪さん…。凪さん…。 身も心もボロボロだった俺に、凪さんは何も聞かずに手を差し伸べてくれた。 『真志喜は、いい子だよ』 あの時の声が、今でも鮮明に思い出される。 また俺のせいで、大切な人を巻き込んでしまった。 それだけで目の前が真っ暗になりそうだ。 でも、ショックで立ち尽くしている場合じゃない。 俺が、なんとしてでも、凪さんを守ってみせる。 繰り出された拳をかわし、相手の鳩尾に膝をめり込ませる。 あれから発砲されることはなかった。 怒鳴り散らす声がしたので、あれは個人の勝手な行動だったらしい。 それでもこの人数相手に長時間神経を尖らせているのは、相当な負荷がかかった。 乱れつつある呼吸を繰り返し、歯を噛みしめる。 「オラァアッ!」 「っ…!?」 その時。 一瞬の隙をついて、飛び込んできた男に押し倒された。 抵抗しようとする間に、他の奴らも俺の体を地面に縫い付ける。 「っ、クソ、離せ…ッ!」 マズイ。 この状況が危険であることを、全身が警告している。 しかしどれだけもがこうと、拘束は緩まらなかった。 「まったく。面倒かけさせやがって…っ」 そう言って目の前の男が口を歪める。 そして舐め回すように俺の全身を眺めた。 「兄貴からの命でな。情報を吐くまで好きにしていいって話だ」   俺の耳元で囁く男の息が熱かった。 その湿っぽい吐息に全身に鳥肌が立つ。 「なんなら扉の向こうの兄ちゃんも一緒に遊ぶか?」 「っ、おい待て…!それだけはやめろッ!」

ともだちにシェアしよう!