72 / 208

潜入

「へぇ、お姉さんたち美容師なのー?何処の美容室?俺今度会いに行っちゃおうかなーっ」 真志喜はただいま、絶賛ナンパ中である。 一仕事終え、「送ります!」とやって来た若衆の榎本を引きずって街へくり出し、見かけた綺麗なお姉さんとキャッキャしている真っ最中だ。 一方榎本は呆れるほど純真で、俺がデレデレしている横でカチカチに固まってしまっている。 せっかく連れてきてやったのに、使えないやつだ。 「ねね、これから何処行くの?え、ご飯?いいなぁ、俺も一緒に連れてってよ」 「あ、あの、真志喜さん…」 「なんだよ。邪魔すんな」 「いや、でも…」 控えめに声をかけられ不機嫌になりながら顔を向け固まる。 そこには相変わらずいけ好かない笑みを浮かべた迅が立っていた。 「な、なんでお前……っうわ!」 言い切る前にあろうことか小脇に抱えられ驚愕する。 その間にも迅は「すみません、コイツ借りていきます」とお姉さんたちに笑いかけ、彼女たちをすっかりメロメロにさせているときた。 この道化野郎…っ。 見せかけの甘いマスクでお姉さんたちを誑《たぶら》かしやがって…! 童顔な俺にはできない芸当をサラッとやってのけるとか、死ぬほど腹立つ! 「離せこんにゃろう!なんでここにいんだよ!」 「榎本に居場所教えてもらったから」 「は!?おい榎本!」 「す、すみません…!」 どうせ迅が脅迫まがいの聞き方をしたのだろう。 部下に対して何を脅しとるんだこいつは。 気づけば車の助手席に放り込まれ、扉を閉められる。 榎本は逃げるように退散していった。

ともだちにシェアしよう!