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ボーイデビュー3

「ねぇマキくん」 「?」  客が帰り、待機室にいると不意に声をかけられた。 見れば白に近いほど色素の薄い髪の毛の、まるで天使のような男の子がにこりと微笑む。 「驚いちゃったよ。リンさんに対してあんな風に接する人なんていないからさ」 「あのお嬢様みたいな子、なんか特別だったりするの?」 「そうだね。あの気の強さと見た目の綺麗さだから、すっかりここでは権力持ってるんだ。今のNo. 1はリンさんだし」 「……へぇ。ところで君、名前は?」 尋ねると、その子は優しい、まるで聖母のような笑みを浮かべた。 この清廉さならきっと人気もあるのだろうなと推測する。 「僕はハズキ。ここに来て2年目になるんだ。よろしく」 差し出された手を握り返し、こちらも笑みを浮かべる。 ハズキくんは、ちょこんと俺の隣に座った。 彼からはいい香りが漂う。 爽やかで鼻につかない、すっきりとした香りだ。 「リンさんはね、結構周りから怖がられてるんだ。人気への執着もかなりのものだから、周りに攻撃的だったりするし」 「そっか。あんなに綺麗なら、普通に実力で勝負していけると思うけど」 「確かにそうだね」 クスクスと笑って、ハズキくんは俺に顔を向ける。 「そういうマキくんは、あんまり欲がない感じだよね」 「んー、まぁ、まだ入りたてで余裕ないから」 「でも、さっき初めての接客だったのにすごく上手だったよ。すっかり気に入られてたみたいだし」 別に気に入られても嬉しくないのだが。 というか出来る限り人気にはなりたくない。 自分の目的はあくまで調査であり、あまり支障が出るような真似はしたくないのだ。

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