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ボーイデビュー7
グラスを手に、自然な様子で声を潜めた迅がそう語る。
続きを促すと、足を組み直した正嗣がため息を吐いた。
「3人とも、いかにもゴロつきの男ら数人に襲われたんだと。そいつらは店の客でもなんでもなかったらしい」
「計画的だったように見えたみたいだから、酔った勢いの行動とも考えにくいかもね」
「……もしかして」
静かに呟いた真志喜に、迅はこくりと頷き、答える。
「これは、誰かが男たちを雇って襲わせたのかもしれない」
何者かがゴロつきたちに依頼し、ボーイを襲わせた。
それはなんの為か。
1番考えられる可能性は…。
あれから2人が帰り、テーブルを離れる。
話し合いが終わった途端、散々ボーイ姿をいじられ殴り飛ばさないようにするのが大変だった。
さらには迅のやつが、しつこいくらい他の客に過度に体を触らせるなだの忠告をしてきてうんざりだ。
自分は人の体を好き勝手するくせに。
「…!!」
頭の中にふと、あいつとのあられもない記憶が過り咄嗟に壁に頭を打ち付けた。
丁度その場にいたボーイの子がギョッとした顔で真志喜を見る。
それも気にせず、真志喜は赤くなった顔をブンブンと振った。
いかんいかん。
こんなことを思い出すなんてどうしてしまったんだか。
ジッとしていられなくなって、テーブルを片付けに行こうと踵を返した。
その時。
「うわぁっ」
まだ入って日が浅いというボーイの子が躓いた。
持っていたワイングラスが大きく揺れる。
その瞬間、真志喜は並外れた反射神経で駆け出していた。
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