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ボーイデビュー8

客にかかりそうになったワインを咄嗟に体を割り込ませて防ぎ、落下したグラスをキャッチする。 ワインが制服を濡らし、アルコールの匂いが香った。 それに僅かに顔をしかめた真志喜だったが、次には真っ青になっているボーイの子に笑みを浮かべる。 「あ、あの、僕…、ごめんなさい…っ」 「大丈夫だよ。サキくんこそ、怪我はない?」 「は、はい…っ」 大きく頷く彼に「それはよかった」とあくまで笑顔を浮かべ、少しでも安心させる。 そして後ろを振り返り、呆然としている客へ頭を下げた。 「申し訳ありませんでした。汚れたりはしていませんか?」 「あ、あぁ、平気だよ…。でも、君が…」 「心配ありません、着替えがありますから。では、失礼します」 再び一礼し、後ろで小鹿のようになっているサキくんを連れてハケる。 その後彼から散々謝罪をされてから、俺は制服を着替えるために更衣室へと向かうのだった。 「あんなの、庇わなきゃいいのに」 「?」 制服を着替えていると声をかけられた。 振り返れば、リンさんがドアにもたれ掛かりながらこちらを見ている。 「あいつ、最近客受けがよかったから、あれでミスって人気落としてれば良かったんだ」 そう吐き捨てるように言うリンさんを、俺は無言で見つめた。 もうNo. 1になっているというのに、彼のここまでの執着心はどこからくるのだろう。 「なんでわざわざ助けたりした?」 鋭い眼差しをこちらに向け、リンは真志喜へと歩み寄る。 スラッとした体型の美しい彼は、目の前まで来ると真志喜の顎を掴み上げた。 暫く至近距離で見つめ合い、次には真志喜が笑みを浮かべる。

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