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存在意義
「またお前来たのかよ」
「はい!真志喜さんお疲れ様です!」
帰り、見慣れた車の前に立つ榎本にため息を吐いた。
そんな風に俺に尽くそうとするから、迅のやつに敵対視されるのだ。
こいつは今20歳で、3年前、散々荒れてヤンキーのやつらと殴り合いをしている姿を俺が見かけた。
1人で3人を相手にし、案の定ボコボコにされて蹴り飛ばされているのを見過ごせなかった。
多分、昔同じように荒れて喧嘩ばかりしていた自分が思い出されたから。
「おい。無事か」
3人を追い払って、地面に倒れ込んだガキを見下ろした。
すると殺気を帯びた瞳がこちらを睨み上げる。
その姿はまるで狂犬だ。
「余計なこと、してんじゃねぇよ…ッ」
「はぁ?よく言うぜ。弱っちぃくせに」
「ッ、うるせぇな!放っとけよッ!」
全てを拒絶するように叫び散らす姿を、真志喜は無言で見つめていた。
そしてスッと相手の目の前にしゃがみ込み、胸ぐらを掴み上げる。
「グッ…!」
「そんな風に嫌なものから目を背けてたら、本当に大切なものまで見失うぞ」
「!?」
大きく目を見開く榎本を見つめ返し、次には立ち上がった真志喜は夜の街へと消えて行った。
その後ろ姿を、榎本は呆然と長い間眺め続けるのだった。
そうして気づけばこいつは日南組に入ってやがって、俺に対してお門違いな尊敬の念を抱いている…。
「俺のことは、是非こき使ってくれて構いませんから!」
そう言って見えないしっぽをブンブンと振る榎本。
あの狂犬が、今では忠犬に変化しているときたから驚きだ。
「…んー。じゃあまあ、頼むわ」
「はい!」
榎本の開けたドアから車内に入る。
もちろんその間に【ブルー・ラピス】の関係者がいないかは確認した。
もしこんな姿を見られたら、何者なのかと怪しまれてしまう。
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