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存在意義3

「お?随分可愛い子連れて来たな。ナンパか?」 やって来た真志喜とハズキに(榎本は「自分は待ってます!」と頑なに入らなかった)、カップを拭いていた凪は手を止め笑みを浮かべた。 コーヒーの香り。 静かな店内。 微笑む凪さん。 ここは世界中で1番俺の心が安らぐ空間だ。 ハズキの手を引きカウンター席に座った真志喜は、ほわほわと笑みを浮かべていつものカフェラテを頼む。 「ハズキくんは?どうする?」 「え?あ、じゃあ僕もカフェラテで…」 「はいよ。ちょっと待ってな」 慣れた手つきでコーヒーを淹れる凪さんを、ハズキくんはボーッと眺め呟いた。 「綺麗な人…」 「ふふーん。そうでしょそうでしょ」 「マキくんは、ここよく来るの?」 「時間があれば来るようにしてる。凪さんは俺の癒しだから」 そう言って表情を緩ませる真志喜を見て、ハズキは再び凪に視線を向ける。 スッと姿勢良く、長く細い指でカフェラテを淹れる凪の姿は確かに美しかった。 真志喜につられ、ついハズキも綺麗なマスターに見惚れていると、凪がカップを持って目の前にやってくる。 「あんまりジロジロ見るなってば。緊張するだろ」 「いいじゃないですかー。あっ、そうだ凪さん、今度どっか遊びに行きましょうよ!」 「えー。だって迅のやつが怒るじゃん」 「あんなやつ気にしなくていいですって」 親しい様子で会話をする2人を、ハズキはカフェラテを飲みながら眺めていた。 すると唐突に凪がハズキに顔を向ける。 「君、真志喜の友達?それとも本当にナンパされたのかな?」 「あっ、やべ…!」 「ましき…って、それが本名?」 真志喜は苦笑いを浮かべて頷く。 凪はそれにどういうことだ?と首を傾げた。 「あー、俺今バイトしてて、そこでの名前がマキなんですよ」 そう話す中で、真志喜は目線だけで訴える。 それに何かを察した凪は、「へぇ、そうなんだ」と特に言及することなく話に乗っかった。

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