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存在意義8

「その様子だと、マキくんは気付いてたのかな?」 前に歩み出たハズキが笑みを浮かべる。 いつも通りの優しげな笑みが、今はかえって異質なものに思えた。 「…確証はなかった。でも、仕事柄そういう勘は鍛えてあるんでね」 「仕事柄…。へぇ…、ただのボーイってわけでもないわけだ」 目を細め真志喜を見据えるハズキ。 その間呆然としていたリンだったが、次には我に返り身を乗り出した。 「ハズキ…!お前、一体どういうつもりで…!」 怒りを帯びたリンの問いかけに、ハズキは口を歪めた。 そして、まるで蔑むような瞳をリンに向ける。 「僕さ、嫌いなんだよ。みんなからおだて上げられて可愛がられてる人間が。見ていると憎くて憎くて仕方なくなる」 「はぁ?なんだよそれ、意味が分から…」 「分かられてたまるかッ!」 いきなり豹変したハズキに、リンが固まった。 先程の笑みは消え去り、怒りを露わにしたハズキが叫び散らす。 「お前みたいな人間には分からない!誰からも必要とされていないと感じる惨めさが!いつ見捨てられるか分からない恐怖が!いつも人の顔色を伺って…、必死に努力して…、それでも誰からも求められないんだ…。この辛さがお前なんかに分かるわけがない…ッ」 愛らしい顔を歪め苦しむハズキを、唖然とするリンの後ろで真志喜は静かに見つめていた。 ハズキと一緒にいる時、真志喜はいつも何か違和感を感じていた。 それがなんなのか、ようやく分かった気がする。 彼はずっと、自分自身を偽りで覆い尽くしていたんだ。 きっと彼が世界で一番嫌いなのは、自分自身なのだろう。 そしてその苦しみを何処にぶつければいいのか分からずに、こうして暴走している。

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