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存在意義10
「な、なに…っ」
真志喜の浮かべた表情、そして誰からもされたことがない抱擁にハズキは動揺した。
「ど、同情でもしてるの…っ?そんなの、いい迷惑だ…っ」
「違うよ。同情なんてしてない」
「じゃあなんだよ…!お前に僕の何が分かる…!?」
真志喜の腕から逃れようとハズキはもがくが、一層強く抱き締められて息を呑んだ。
嫌だ。やめてくれ。
こんな風にされたことなんてなかった。
誰からも愛情を向けられることなんてなくて…、だから僕は…。
「…分かるよ。だって、ハズキくんが言ってたんだろ?」
「ぇ…?」
「寂しいって、言ってたじゃないか」
彼は、愛情を知らな過ぎた。
だから何をどう求めていいのか分からないのだ。
他人を拒絶することでしか、寂しさを誤魔化すことができない。
でもそれじゃ、本当に全てを失ってしまう。
俺の母さんは、とても綺麗な人だった。
いつだって優しく微笑んでくれて、その笑顔を見るだけで安心できた。
しかし彼女は次第にやつれ、寝たきりになり、食事も喉を通らなくなった。
母さんの存在が日に日に消えていってしまうようで、俺は怖くて怖くて仕方なかった。
たった1人の愛する人がいなくなったら、俺はどうすればいいのだろうか。
幼いながら、死ぬことさえ考えた。
しかし母さんは死ぬ間際に言った。
「諦めてはいけないよ…」と、いつもの笑みを浮かべながら涙を流していた。
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