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存在意義12

「もしも…」 『真志喜、大丈夫?怪我とかない?今立て込んでて会いに行けないんだけど、もし真志喜が俺に来て欲しいなら今すぐにでも駆けつけるよ』 「ご心配なく。そんなこと1ミリも思ってねぇから」 『なんで俺には報告してくれなかったんだ?分かっていれば一緒に行ったのに』 「それが嫌だからだろーが!もういいから仕事に戻れ鬱陶しい。俺はまだやることがあんの!」 ブチッと電話を切り、ハズキくんを連れて車から離れる。 耐え切れないため息がこぼれると、隣のハズキくんが僅かに微笑んだ。 「今のって、マキくんの恋人さん?」 「っ…、いや、別に、そんなんじゃ…」 「…ふーん。もしかしてマキくん、好きな相手には素直じゃないタイプ?」 「!」 変な表情で固まる俺を見て、ハズキくんがクスクスと笑う。 そして次にはその長い睫毛を伏せ、息を吐いた。 「今回僕がやったことは、決して許されることじゃない。ちゃんと桐崎さんに話しに行くよ。でもあの人、警察沙汰にはしたくないって言ってたよな…」 「被害に遭った子たちにも了承は得てるみたいだよ」 「……」 ハズキくんは【ブルー・ラピス】を辞めてしまうだろう。 その後はどうするのか。 きっと、家族の元へは帰らない。 そんな決意のようなものを感じる。 「…俺さ、母さんのことが大好きなんだ」 「……」 「けどそれとは逆に、身内でスゲー母親を嫌ってるやつがいてさ」 「え?」 あれは俺がまだ学生の頃、家にいた俺は何やら外が騒がしいことに気づき、窓から様子を伺った。 そこには組のやつら数人とじぃじ、そして迅の姿もあった。 みんなが視線を向ける先には女性が1人立っていて、じぃじに涙ながらに縋り付いている。 長い黒髪に黒いワンピースの細い女性だ。 少しやつれてはいるが、綺麗な人だったと思う。

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