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愛情4

きょとんとする彼方の目の前で、真志喜はバッと両手を広げる。 そして次には思いっ切り彼方へと抱きついた。 「俺を慰めて〜、彼方さ〜んっ!」 「うわわわ…っ」 「ちょっ、お前何してんだ変態野郎!」 「まったく、いわんこっちゃない…」 騒ぎ出す真志喜たちに清はため息を吐き、止めに入ろうとする。 しかしふと、目に留まった迅の表情に動きを止めた。 彼はとても、思い詰めたような顔をしていた。 迅のこうした顔は時折見ることがある。 そしてそれはいつも、真志喜を見つめている時になる表情だ。 【ブルー・ラピス】へ真志喜を行かせることに、迅は乗り気ではなかった。 それは単に、愛しい相手を水商売の場に行かせたくなかっただけなのか。 それとも、もっと別のわけがあるのか。 あるのだとしたらそれは…。 それは我々の知らない、迅だけが知っている真志喜の過去に関係があるのだろう。 「もう真志喜。そんなに慰めて欲しいなら俺がしてあげるよー」 「え?うわぁ止めろバカ!」 すぐに笑みを浮かべていつもの様子に戻る迅。 その彼を清は黙って見つめていたが、次にはスッと視線を逸らし、お湯に浸かりに行くためその場を離れるのだった。

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