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愛情5

熱湯ですっかりのぼせた彼方さんを連れて帰ってくると、すっかり宴会の準備は整っているようで、本邸の中は騒々しくなっていた。 「おぉ、皆さんおかえりなさいっ。ささ、中にどうぞっ」 大広間には既に賑わっていて、俺たちは促されるままに腰を下ろす。 世話焼きの清さんは準備の方に回り、若衆たちが恐縮しまくっていた。 一方彼方さんはペコペコと何度も頭を下げている。 「ああ、すみません。俺なんかが参加させていただいて…っ」 「そんな!寧ろ大歓迎ですよ!」 「彼方さんは俺らのアイドルなんだから!」 彼方さんはすっかり人気者で、周りのやつらはだらしなくデレデレとしていた。 もちろんそれを正嗣が許すはずもなく、誰も近づけないでいるのだけれど。 「…って、なんでお前が隣に座るんだよ」 「そんな連れないこと言わないでさ。ほら、一杯どうぞ」 そう言って酒を注がれ、横目で迅を見ればにこりと微笑まれた。 俺はケッと吐き捨て、酒を飲む。 すると同じく迅も酒を飲み、軽々と飲み干しやがった。 それに俺は負けじと同様に飲み干してやる。 こいつは酒が強い。 どれだけ飲んでも、酔ったところを見たことがない。 俺はいつもこいつと張り合おうとするのだが、酒はあまり強い方ではなくいつも惨敗している。 実に不愉快だ。 「おい迅、お前飲むペース早ぇよ」 「え?そうかな。普通じゃない?」 「っ、…あぁ、そうだな、そんくらい普通だッ」 にこにこ笑ってる迅から視線を逸らして、3杯目をグビッと飲み干す。 ちょっと顔が熱い。 もう止めといた方がいいと分かっているけれど、こいつに対する負けん気がそれを許さない。 「真志喜、顔赤いよ?」 「うるさい!赤くねぇよ!」 周りはこの2人のやりとりに、「また始まった」と苦笑いを浮かべるのだった。

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