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愛情7

「あの、正嗣さん…」 「ん?どうした?」 出て行った迅たちを見つめ、彼方は何かを思い詰めたような顔をしていた。 そんな恋人の肩を抱き寄せ、正嗣は顔を覗き込む。 彼方は「あの…」と話すことを躊躇うように言い澱んでいたが、次にはおずおずと正嗣を見つめ返した。 「さっき銭湯に行った時…。真志喜くんの体に…その…。……古い傷が、たくさんあった気がしたんですが…」 その中には何かを押し付けられたような火傷の跡もあったと思う。 白く綺麗な肌に浮かぶ傷が痛々しくて、ひどく胸が締め付けられた。 それを聞いた正嗣は、さらに彼方を抱き寄せ息を吐く。 「っ、正嗣、さん…?」 不思議そうな顔で見上げる彼方に、正嗣は悲し気な表情で笑った。 「真志喜は、俺たちには想像できないくらい重たいもんを抱えてる」 「ぇ…?」 「きっとそれは、あいつにしか癒せない」 傷だらけの少年を背負ってきた迅を思い出す。 その後の、まるで何かに取り憑かれたかのように真志喜に付きっきりになっていた姿も。 あの2人には、時間の中で育んでいく絆以上のものがある。 それは一見幸せな繋がりのようで、一方でどこか呪縛のような、そんな捻れ曲がったようなもののようでもあった。 それでもはっきり分かることは、迅には真志喜が、真志喜には迅が必要だということだ。 「…ほんと、ややこしいんだよ。あいつらは」 彼方の頭を撫でながら、正嗣が困ったように笑う。 彼方は無言で、そんな恋人の顔を見つめていた。

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