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愛情8
「ふ、…んんっ」
「なんか真志喜、いつもより敏感?」
首や耳を甘噛みするたびに震える真志喜を、迅は愛おし気な瞳で見下ろす。
肌蹴た首筋は朱色に染まり、触れる肌は吸い付くようにきめ細やかだ。
それでいて少女のような可憐な声を出すのだから、迅は堪ったものではない。
なんなんだ、この可愛い生き物は…。
「あ、あんま、見るなぁ…」
「ん?なんで?」
「だ、って…。俺、汚い、から…」
「……」
俺から逃げるように体を隠す真志喜。
正確には体の傷を、だ。
いつもは強がって堂々としているが、酔っている今のこの反応が本心なのだろう。
過去に作られた傷を、真志喜は酷く醜いものだと感じている。
昔は傷が目に入るたびに、苦しそうに顔を歪めていた。
「…そんなことないよ」
そっと真志喜を抱き寄せ、その潤んだ瞳をジッと見つめる。
本心から思っているのだと分かってもらうために、ゆっくりと告げる。
「綺麗だよ。真志喜は綺麗だ」
「…っ。迅…」
ポロリと、その頬に滴が伝う。
優しく拭ってやれば、その掌に甘えるように頬を擦り寄せてきた。
その姿はまるで甘えてくる子猫のようで、ひどく心を揺さぶられる。
そう。真志喜は猫のようなのだ。
いつもはこちらに見向きもしてくれないのに、時たまこうして心を開いてくれる。
俺はそんな気分屋の猫に、まんまと踊らされている。
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