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愛情12

「じ、ん…っ」 「ん、なに?」 伸ばされた手が、俺の眼鏡を取り外した。 レンズ越しでなくなった真志喜が、俺の瞳を見つめてくる。 少し居心地が悪くて目を逸らすと、ギュッと耳朶を引っ張られた。 「い…っ!」 「そらすなばかっ」 「だって真志喜、見過ぎだし…」 「誰に似てるとか、関係ない」 「ぇ?」 「迅は、迅だ。いちいち関係ない」 「……」 無言で真志喜を見下ろせば、真っ直ぐに見つめ返してくる。 その強い視線に酔いが覚めたのかと思ったが、まだ顔は赤いままだ。 あの日。 母親が家を訪れて来たあの日は、今でも鮮明に覚えている。 俺が高校2年生の時だ。 今にも消えてしまうのではないかと思うくらい、生命力を感じない人だった。 黒いワンピースを着たその姿はまるで死神のようで、実の母親にあれほどの嫌悪感が湧くのかと、やらせない気持ちになった。 その日の夜に見た自分の顔が、その目が、あの女に酷く似ていて… それがあまりにも醜く、情けなく、今すぐ消えてなくなりたくなった。 母の温もりなど感じたことはない。 覚えているのは、鬱病になったあの女がヒステリックに叫び散らしている光景だけ。 俺にとっての母親は、禍々しい存在でしかない。 「おい、迅」 「……」 俺が風呂から上がると、珍しく真志喜が声をかけてきた。 いつもなら喜んでいるところだけれど、その時は真志喜に近づきたくなかった。 こんな自分を、見られたくなかった。 「ごめん真志喜…。俺、ちょっとやることあるから…」 「迅」 「用があるなら、明日聞くよ。今は…」 「迅!」 強く、腕を引かれた。 驚いて振り返れば、真志喜の真っ直ぐな瞳と視線がぶつかる。 言葉の出ない俺を真志喜はジッと見つめていたが、次には俺の腕を握る力を強めた。 「関係ないぞ」 「…ぇ?」 「迅は迅だ。他は関係ない」

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