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前触れ7
騒ぎ立てていた真志喜、迅、正嗣が視線を向けた先には、仁王立ちの清が見下すような目付きで静かに3人を見据えていた。
“バカ三兄弟”などというネーミングに堪らず凪がプッと吹き出すが、すぐに清からの鋭い視線が向けられ笑みが引きつる。
「店内でバカ騒ぎをするなど礼儀知らずにも程があります。正嗣さん、あなたは若頭としての意識が足りません」
「うぐっ」
「迅、そんな調子ではいつまで経っても真志喜に認められませんよ」
「ふぐっ」
「真志喜、……もう少し大人になりなさい」
「あぐっ」
3人ともにクリティカルヒットの言葉を浴びせ、平然とカウンターに座る清。
そんな彼に凪はスッとコーヒーを差し出し、「お見事です…」と苦笑いを浮かべるのだった。
「あ、あの俺…っ、思っていることがあるのですが…!」
「ん?なんだ彼方?」
すっかり3人が大人しくなってから少しして、彼方が意気込みながら切り出してきた。
周りが首を傾げる中、彼方は立ち上がりギュッと拳を握りしめる。
「お、俺っ、よく人に絡まれたりするから、正嗣さんだったりによく迷惑をかけてしまうんです…!」
「そうみたいですね。今回のことでよく分かりました」
小さくため息を吐く清に彼方は「本当にすみません…」と落ち込むが、次にはグッと顔を上げた。
「だから俺っ…、少しでも心配をかけないように護身術を身に付けたいんです…!」
「えっ、彼方さんが!?そんないいんですよっ、面倒事は正嗣のやつに任せとけば!彼方さんはか弱いお姫様でいてください!」
必死な真志喜の願いだったが、彼方の意思は強かった。
珍しく身を引かない恋人に、正嗣は驚く。
彼方は根が真面目であるから、助けられるのが申し訳ないと思っているのだろう。
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