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前触れ10
「うーん…。俺なんかで本当に良いんですか?」
「もちろん、西倉さんが1番の適任だ」
正嗣に固く手を握られた西倉は苦笑いを浮かべる。
大広間では既に宴会が始まっている中、正嗣に呼ばれた西倉はこうして彼方の件について頼み込まれていた。
彼方に護身術を教えて欲しいと若頭直々に頼まれてはとても断れない。
彼方を連れてきて早々、正嗣は組全体に恋人宣言をしているので、彼方と正嗣の関係は周知の事実だ。
それに彼方本人の人の良さも知っているから、邪険にすることもできない。
「なんたって西倉さんは既婚者だから、余計な心配もいらないしなっ」
「そ、そうですね」
「彼方からも直接挨拶に来たいって言ってたから、近いうちに予定を…」
笑顔で正嗣が話を進める。
しかし、襖の向こうが騒がしいことに気がつき口を閉じた。
なにやら悲鳴というか、怒声というか…、そんな叫び声と共にドタドタと足音が聞こえる。
周りもそれに気付き出し確認しに行こうとしたその瞬間。
襖を突き破り、もの凄い勢いで1人の男が大広間に突っ込んで来た。
「な、なんだなんだ!?」
「誰かが吹き飛んできたぞ!?」
「つーかコイツ…、なんで全裸なんだ!?」
丸出しの尻を突き出し酷く間抜けな格好で撃沈している男に周りが騒いでいると、破壊された襖の向こうから新たにもう1人やって来る。
「テメェ…、死んで詫びろや変態野郎…ッ」
「え、な、真志喜!?」
完全に怒りマックスの真志喜の様子からすると、どうやら男は真志喜にブッ飛ばされここに突っ込んできたようだ。
しかし、今問題はそこではない。
なんと後からやって来た真志喜も、男同様に全裸であった…。
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