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前触れ16

「なら力づくでも連れて行く」 「やってみろやデカブツ!」 「真志喜は渡さない」 「お、おいお前らやめろって…っ」 どんどんヒートアップする周りに、俺は危険を感じて迅たちを止めようとした。 ──その瞬間。 男の大柄な体からは想像できないほど俊敏な右ストレートが、榎本の顔に直撃した。 「「!?」」 俺と迅が目を見開く。 殴られた榎本は、勢いよく路地裏のゴミ捨て場に突っ込んだ。 「榎本!」 すぐさま駆け寄ろうとすれば、目の前に男が立ちはだかる。 俺は足を止めて顔を顰めた。 無駄のない動きだった。 かなりの手練れだと、あの一撃だけで察する。 正直ワンマンで負けたことはないが、初めて自分との力量を推し量るのが困難に感じた。 それでも、ここまでされては見過ごすことはできない。 「手ぇ出してきたのはそっちだ。覚悟しろよ…ッ」 「大人しく従え。騒ぎになったら面倒だ」 「従うかボケ!その偉そうな口開けなくしてやる!」 スーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外す。 倒れた榎本はまだ動かない。 もしかしたら当たり所が悪かったのだろうか。 「…おい迅ッ、榎本のやつを連れて行け!」 「でも、それじゃ真志喜は…っ」 「いいから行け!もしものことがあってからじゃ遅い!」 「じゃあ誰かを呼んで…!」 「こんなとこで騒ぎを起こすつもりかよ!つーかあんなヤツに俺がやられるか!いつもの(おつむ)はどうしたバカ眼鏡!」 言葉を詰まらせた迅は、少しして「クソ…ッ」と吐き捨てると足を踏み出した。 「すぐに戻ってくる…ッ!」

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