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前触れ17

「もう一度言う。大人しく付いて来い」 「断る。半殺しにされる前にとっとと消えろッ」 表情を崩さない男は無言で俺を見つめると、フッと諦めるように息を吐いた。 まるで聞き分けの悪い子供を相手するようなバカにした態度にカチンとくる。 誰もいなくなった通りに静寂が起こり、次の瞬間、真志喜は強く地を蹴りつけた。 一気に相手の懐に突っ込み、その腹に右ストレートを叩き込む。 しかし相手はかなりの反射神経でそれを受け止める。 それでもそれなりに衝撃だったのだろう。 男が初めてその目を僅かに見張る。 続けて繰り出した脇腹を狙った蹴りを、その太い腕がガードした。 それに舌打ちを溢し、一度距離を取る。 俺の場合、一度の攻撃に己の体重をいかに乗せるかという技術でもってパワーを上げているに過ぎない。 なのでこの大男と普通に力比べをしても、とても敵わないだろう。 一度捕まればそれこそ終わりだ。 あークソッ、デカい図体しやがって。 こっちがどんだけ苦労してるかも知らずに、マジで腹立つ…! 「見た目に反してえげつない蹴りだな」 「見た目は余計だ!余裕ぶっこきやがってとことんムカつくッ!」 地面に置いていたスーツの上着を拾い上げ、再び駆け出す。 相手はあくまで手を上げようとはしてこない。 傷をつけたくないと言っていたが、どういう意図なのだろうか。

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