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前触れ20

なんだ。何が起こっている? 状況を理解する前に、男が自身の携帯を取り出し電話に出る。 「はい、荒木です。……はい、…はい」 荒木と名乗った男は静かに返事を繰り返している。 俺はそんな相手の余裕さにカチンときて、なりふり構わず思いっ切り足を振り上げ相手の後頭部にぶつけてやった。 ガンッと俺の爪先が頭にヒットし、相手がグッと前屈みになる。 その状態で両者は動きを止め、男は真顔で、真志喜ガルルルッと威嚇しながら見つめ合った。 そして次には相手の胸板をドンッと突いて拘束から抜け出す。 俊敏な動きで距離をとり、毛を逆立てたネコ状態になる真志喜を男は無言で見つめ、次には携帯を切った。 「…今回は手を引けと、あの方から指示があった。また正式に出迎えに行く」 「はぁ?なんだよそれ。つーかあの方って誰だッ」 「今度は大人しく従うように願う」 「おいコラ!人の話しを聞きやがれ!」 目をつり上げる真志喜に背を向け、男は去っていく。 後を追ってやろうかとも思ったが、今は無駄に出るべきではないだろう。 相手の姿が見えなくなって、真志喜は1人立ち尽くす。 そして次には「クソッ…!」と電信柱に拳を叩きつけた。 負けた。 タイマンで勝負をして、ハンデも何もなしに。 自分の強さを過信していたわけではない。 この体ではできることに限りがあることも知っている。 けれど…、ここまで明確な負けを味わうことは初めてだった。 酷く、惨めに思えた。 「迅にデカいこと言って負けてたんじゃ、世話ねぇよ…」 警戒心を解くと、ジワジワと悔しさが湧き上がってくる。 真志喜は手をついた電信柱にもたれかかり、そのままズルズルと座り込むのだった。

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