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苦杯5

鏑木(かぶらぎ)賢吾(けんご)。 鏑木グループの経営者。 大規模グループのトップでありながら、裏でも巨大組織のドンとして名を馳せている。 暴力団との繋がりもあり、膨大な金額を裏で動かしているという話も。 しかしその情報が漏洩されることはまずなく、調べようとした人間は尽く悲惨な最後を迎えている。 ──そんな男が今、迅の目の前にいる。 突如日南組に訪れて来た彼は、両脇にいかつい男たちを従えていた。 そのスタイルの良い体に高級そうなスーツを纏い、クセのない黒髪を全て後ろになでつけている。 整った顔立ちだが全く表情は動かず無に等しい。どこか冷徹さを感じる読めない相手であった。 こんなビッグが日南組などに何の用なのか。 しかも突然の来訪である。 迅の他にも正嗣や清、それに本邸に住み込みでいる連中も集まり誰もが警戒の目を向ける中、徐に鏑木が口を開いた。 「ここに、真志喜がいると聞いたのですが。是非会わせては頂けませんか」 「っ…!?」 迅の中で衝撃が走った。 そして先の騒動との繋がりを疑う。 まさかこの男が、真志喜を狙っているという…? 「申し訳ありませんがね。こう突然いらっしゃられても困りますよ」 返事したのは正嗣だ。 鏑木に対して動揺する事なく、日南組の若頭として相応の威厳を持って言葉を返す。 その時、ふと見た鏑木の後ろに昨日迅たちの前に現れた男の姿を見つけた。 迅は瞠目し、次には眉を潜める。 この時点で、推測は核心へと変わる。 それにしても、この男は一体真志喜とどういう関わりがあるのか。 幼い頃から真志喜といる迅であっても、彼と真志喜の接点を見出せないでいた。

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