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苦杯6

ただ一つ分かるのは、それが良いものではないということだけ。 あんな強引な真似をする相手が、真志喜にとって良い関係であるわけがない。 張り詰める空気の中、鏑木は次にはスッと目を細め、迅たちの更に向こうへと目をやった。 「久しぶりだな、真志喜」 「ぇ…」 その場にいた全員が後ろを振り返る。 視線の先にいた真志喜はその目を大きく見開き、青ざめた顔で鏑木を見つめていた。 「な、んで…」 弱々しく掠れたその声に、周りも動揺する。 殆ど放心状態の真志喜に鏑木は抑揚のない声で言った。 「お前が必要になった。だから帰って来なさい」 その言葉に周りがざわつく。 全く状況が読めずに口をつぐむ清の隣で、正嗣が僅かに動揺の滲む声で割って入った。 「ちょ、ちょっと待って下さい。此方は何が何やら分からないんですけど、あなた、真志喜とどういった関係なんですか?」 「…その反応だと、何も聞いていないようですね」 「え?」 呆れたと言ったように息を吐いた鏑木は、次には真志喜を見据え、淡々と告げた。 「あれは、自分の(せがれ)ですよ」

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