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苦杯7
「倅……というのは、つまり…」
「違う…ッ!!」
正嗣の言葉を遮り、真志喜が叫んだ。
その顔を歪め、ギッと鏑木を睨み付ける。
「俺はッ…、アンタの息子なんかじゃない…ッ!」
それが迅には、心からの訴えに聞こえた。
あの日。
初めて真志喜と出会った日の、あの死にかけていた小さな体を思い出す。
「アンタは俺と母さんを捨てたッ…!世間体ばっか気にしてッ、結婚する気もなかった母さんが身篭った途端突き放したんだッ…!」
迅はその声に、瞳に、確かな怒気を感じた。
それは憎しみにも近い怒りだ。
「アンタは父親なんかじゃないッ!」
言い放ったその悲痛な叫びに胸が痛む。
自分が母親を嫌悪したように、真志喜は父親を恨んでいるのだ。
いや、真志喜の言った通り、この男は父親でも何でもない。
今は俺たちが、真志喜の家族なのだ。
「お引き取り願えますかな、鏑木さん」
一瞬静まったその空間に、重く低い声がまるで響くように聞こえた。
声の聞こえた方に全員が顔を向ける。
奥からやって来た日南組の組長、日南鉄心は、真志喜の隣に立つと落ち着かせるようにその背中に手を添えた。
「真志喜ちゃん。奥へ行ってなさい」
「ぇ…?でも…」
戸惑う真志喜よりも早く、正嗣が動いた。
隣の清に声をかける。
「清、真志喜を」
「はい」
清も同様すぐに動き真志喜の所まで行くと、鉄心に変わって背中に手を添え、奥へと連れて行った。
真志喜は途中、不安げに迅の方を見遣る。
それに迅は、無言でしっかりと頷いてみせた。
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