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苦杯12
俺は完全に見捨てられたのか、薄暗い路地裏に捨てられた。
もう、何も感じることはなかった。
流れる涙もありはしなかった。
やっと死ねる。
やっと、母さんの所へ行ける。
もう何も見たくない。
聞きたくない。
この場所にはもう、俺の居場所はなくなってしまった。
俺を真志喜と呼んでくれる人も、この体を抱きしめてくれる人もいない。
この世界には、光など存在しない。
「──どうしたの…?」
その時、声が聞こえた。
虚な瞳で見上げれば、見知らぬ少年がそこにはいた。
そして彼と目が合った瞬間、俺は無意識に呟いていた。
「……き…れぃ…」
その瞳は、確かな光を宿していた。
存在しないと思っていた光が、そこにはあった。
綺麗だと思った。
──諦めてはいけないよ。
今までよりも鮮明に、母さんの声が聞こえた。
胸が苦しいくらいに締め付けられて、忘れていたはずの涙が一滴、頬を伝った。
その小さな手が、目の前に差し出される。
もう指一本動かなかったはずの俺の手は、自然とその手へと伸ばされていた。
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