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バカなやつ3

「珍しいこともあるもんだな。迅がお前にあそこまで反発するなんて」 「…ちっ。ンなの知るかよ」 縁側に腰掛け不貞腐れる真志喜に、隣に座った正嗣は苦笑した。 その頬と鼻に絆創膏をつけた横顔を見る。 まさか迅と真志喜が取っ組み合いの喧嘩をするとは。 意外過ぎて笑ってしまいそうだ。 まぁそれだけ、あいつが真志喜について本気で考えてるってことなんだろうな。 「なぁ。守りたいって思うことは、そんなにいけないのか?」 「……余計なお世話だ」 「真志喜。あいつはお前に、心底惚れてんだよ」 真志喜が黙る。 きっとこいつだって、迅の気持ちも分かってる。 でもそのせいで傷つかれることが何よりも嫌なのだ。 こいつは人一倍、相手の痛みに敏感だから。 「それに、今回のことは迅だけじゃなく、俺たち日南組全員が望んでることだしな」 「……」 真志喜の頭をくしゃりと撫で、正嗣は立ち上がる。 真志喜から鏑木との話を聞くのは、少し待った方がいいだろう。 とはいえ、ことがことだからそんなに待ってはやれないが。 「──…ん?」 僅かに違和感を感じた。 思考を止めて隣にいる真志喜を見下ろす。 「おい、真志喜…?」 「…はっ、はぁ…っ、は…」 呼吸が粗い。 というか、仕方がぎこちない。 不規則に息が吐かれ、上手く酸素が吸えていない。 過呼吸だ。 そう判断したと同時、真志喜の体がグラリと揺れた。 「真志喜…!」 咄嗟に抱きとめるも、過呼吸は治っていない。 胸を押さえ喘ぐ真志喜に、正嗣は必死に呼びかける。 「真志喜、ゆっくり息をしろっ。真志喜…!」 「ハッ…、ハッ…ァ、ハァ…!」 僅かに開かれていた目蓋が閉じられる。 次には、真志喜の目の前は真っ暗になっていった──。

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