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バカなやつ8

ふと、帰ったらこの格好でセックスするのだろうか、なんて考えた。 まぁ別に、こいつとヤるのなんて今更だけど。 俺が12で迅が15の時、初めて俺たちはセックスをした。 この時ばかりは俺ではなく、迅の方が初めての経験だったみたいだけど。 慣れた様子の俺に面食らっていたっけ。 あれは結構笑えた。 でもある意味、俺にとっても初めての体験だったかもしれない。 だってあんなセックスは知らなかった。 胸のあたりがじんわりと生温い熱を浴びて、気を抜いたら目頭が熱くなってきそうな、あんな感覚は知らない。 何故あいつとあんなことをしたのか。 それは正直よく分からない。 気がついたらそういう流れになっていて、気がついたら口づけをしていた。 「バイト、またクビになった?」 「……」 なんでもないようにそう尋ねられて、俺は無言で迅を見た。 見上げたその横顔は、いつもと変わらない笑みが浮かんでいる。 俺はなんだか悔しくて、ふいっとその横顔から視線を逸らした。 「……なんで、分かんだよ」 ぶっきら棒に吐き捨てる。 尋ねるというより愚痴に近い、そんな呟き。 初めてのセックスに余裕をなくしていた迅が懐かしい。 「お前は誰よりも早く気づく。俺がどんだけ隠しても、欺いても。なんでだ?」 再び横を見上げれば、今度は目が合った。 レンズ越しではあれど、初めて見た時と変わらない迅の瞳が俺を映す。 口をつぐむ俺に、迅はその顔を綻ばせ、答えた。 「真志喜のことが大切で、何よりも愛おしいから」 僅かに目を見開く。 そして次には、真志喜は悔しげに眉を潜めた。 「……なんだそれ」 いつだってそうだ。 こいつは俺が口が裂けても言えないことを、いとも簡単に言ってのける。 偽りのない言葉を発することに恐怖しない。 そんな迅を、俺は時々眩し過ぎて見失ってしまいそうになるんだ。 浮かべた微笑が、今度は子供らしく無邪気なものに変わる。 そんな迅を前に、俺は無意識に目を細めていた。

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