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バカなやつ13

「せ〜い、会いたかったよ〜」 いつものように何処からともなく入り込んだ冬馬は、そう言って台所に立つ清の背中に抱きつこうとした。 しかし振り返った清の手に握られた包丁に、ピタリと動きを止める。 「何か?」 「…イヤ。ちょっと昔のことを思い出した…」 そう。あれは自分も清も小さかった頃。 冗談で清のお尻もモミモミしたら、途端殺気を感じ、そのまま公園の木に縛りつけられて3時間くらい放置された。 まだ清は5つとかだったと思うけれど、とても5歳児がするような所業ではない。 「で、お前は何しにここへ?」 「ん〜?早速なんか騒動があったみたいだから様子を見に来たんだ〜」 なんだか大変なことになっているようで。 清の隣に立ち、パクリと出来上がっていた唐揚げを頂く。 衣はサクサク、中はジューシー。 流石、清の作るものは絶品だ。 「まったく…。情報を提供するなら、もっと詳しく教えるべきだ」 「ごめんごめん。流石に鏑木グループ相手だと色々とおっかなくて」 鏑木グループに深入りする人間など、命知らずかただの馬鹿しかいない。 そんな巨大な組織のトップが、まさか真志喜ちゃんの父親だとは、流石の俺も驚いた。 「鏑木が真志喜の血縁者だったことは、もともと知ってたのか?」 「ん〜。噂程度で息子がいるとは聞いてたけど、そこまでハッキリとは。なんせ実際の奥さんとはなかなかお子さんを授かれずにいるらしいからねぇ」 「…それで、真志喜が必要になった?」 「さぁ?俺もそこまで調べてるわけじゃないし。下手したら殺されちまう」 これが冗談じゃないから怖いんだよなぁ。 ほんとおっかないことだ。 「俺は日南組の人間じゃないけど、それなりにここの人たちは気に入ってるからさ。あんま、無理しないでね」 「……時と場合によるな」 そう言って笑みを浮かべた清に苦笑いがこぼれる。 まったく。これだから日南組の人間は。 見ていて飽きないね。 さて。これから一体、どうなることやら。

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