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欺瞞2

「び、ひびったぁ…。清さんってなんで物音立てないのさ?毎度驚く…」 「別に意識してるわけじゃないですけど。……って、何してるんですか」 何故か抱きついてきた真志喜に清が尋ねれば、当の本人はうりうりと額を擦り付ける。 「いや〜、ちょっと充電を」 「意味が分かりませんが」 清さんが呆れたような目を向けてくるが知ったことか。 だって外出を禁止された今、街中にナンパへも行けず、凪さんに会いにいくことも叶わないのだ。 こんな苦行があるか。 本邸にいるやつらなんてむさ苦しい連中ばかりで、俺のこの欲求を満たせるのは清さんしかいないのである。 はぁ。清さんっていい匂いがするんだよなぁ。 心からの癒し。ずっとこうしていたい。 「真志喜さーん!ここにいたんですかー!」 「ほら、迎えが来ましたよ」 「……っけ」 ほんと、タイミングが悪いな。 ドタドタと喧しいやつが来たと辟易しながら、渋々清さんから体を離す。 振り返れば榎本のやつが駆け寄って来て、かなり探し回ったのか息を切らしていた。 「今日は一緒に行動してもらうって話だったのに、なんで来てくれないんですか…」 「うるせぇな。今から行こうとしてたんだよ」 唇を尖らせそっぽを向く。 さっき見た時、榎本の右頬はまだ腫れているようだった。 罪悪感を覚え、チクリと胸が痛む。 これから俺のせいで傷付く者が出てくるのではないか。 そう思うと、何とも言えない気分にさせられた。

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