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欺瞞4
「あ。そういや西倉さん、彼方さんに護身術教えるんだっけ。正嗣に頼まれた?」
「あぁ、うん。若頭の頼みだし、彼方くんいい子だからね、断る理由はないよ。……ただ」
言い淀む西倉に、湯呑みに口付けていた真志喜は顔を向けた。
すると彼は困ったような笑みを浮かべて、少し言いづらそうに話を続ける。
「教えることは約束したけど、状況が状況だから、少し先延ばしにした方がいいだろうね」
「……あー。なるほど…」
理解した途端、一気に申し訳なく思う。
俺のせいで、組のみんなだけじゃなく彼方さんまで迷惑を…。
「ま、真志喜さんが責任感じることないですよ!悪いのは全部、あの鏑木とかいう男です!」
「そうだよ。彼方くんも、落ち着くまで待ってくれるって言ってるしね」
「……」
こんな気遣いまでされてしまった。
情けない。
しっかりしろ自分。
少しでも早く、この問題を終わらせなければ──。
「た、大変です!」
勢いよく襖が開かれ、若衆の小林がやって来た。
その取り乱した様子に、ただ事ではないと立ち上がる。
「どうしたっ?」
「そ、それが、迅の兄貴が…!」
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