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欺瞞5

「じぃじ!お願いだ!」 「ならん。そんなことをしたら、相手の思う壺だろう」 確かにそうかもしれない。 でも、ただジッとしているなんてできなかった。 迅の乗っていた車が、何者かに襲われたと情報が入った。 何者か、なんてもう犯人は分かっている。 鏑木の連中が、仕掛けて来たのだ。 今、迅を含めた三人の状況は掴めていない。 あまりにも情報が少なすぎる。 「行かせてくれ!じぃじ!」 「……ならん」 「じぃじ!!」 もしものことがあってからじゃ遅い。 俺のせいだと分かっていることを、何故放っておける。 「いってきます」と微笑んだ迅の顔が頭を過ぎる。 ついさっきのことだ。 さっきまで手の届く場所にいた。 もしも、二度とその手が届かなくなるのなら… 俺にもう、存在意義などない。 「迅が死んだら、俺も死んでやる」 「真志喜…」 「あいつの命は、俺の命だ…!」 咎めようとした清を、前に出た鉄心は無言で制した。 そして僅かな沈黙の後、口を開く。 「こんなことは、決して迅のやつは望んでおらんぞ」 「うん」 「それでも、行くか」 「行く」 即答した真志喜に、清は溜息を付き、西倉は苦笑いを浮かべた。 まもなく榎本が部屋へ入って来る。 「迅の兄貴たちの場所が分かりました!車も用意できてます!」 瞬間背を向け迅たちの元へと行こうとする真志喜を、鉄心はもう止めはしなかった。

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