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欺瞞6
「あった!あの車!」
「わっ、ちょ、危ないですって真志喜さん!」
後部座席から身を乗り出し榎本の頭を掴んだ真志喜は、前方を指差した。
そちらへ助手席にいた西倉が視線を向けると、ずっと遠くに一台の黒い車が見える。
「あれだけで分かるの?」
「だってナンバーがそう!」
「相変わらず凄い視力ですね…」
人通りのない駅裏。
その道に放置された車。
すぐ確認に行くが、中にも周辺にも人の気配はなかった。
「迅坊っちゃんたちは何処へ…」
「もしかして連れて行かれたんじゃ…!?」
「取り敢えず、みんなに連絡しよう」
「っ、はい!」
携帯を取り出す榎本の横で、真志喜はチラリと人のいない車内を見遣る。
そして僅かに眉を潜めた。
なんだろう、この違和感は…。
何か嫌な予感がする…。
「っ、西倉さん後ろ!」
真志喜が叫ぶと同時、西倉は背後から襲ってきた相手の胸ぐら掴んだ。
そして無駄のない背負い投げで、相手を地面に叩きつける。
「ガハッ…!」
「忍び寄るなら足音だけじゃなく、呼吸も止めることだね」
背中を強打した男がのたうち回る中、至って冷静に西倉は告げた。
「なんすかそいつ…」
「金に釣られた馬鹿じゃねぇの」
「金?」
冷めた様子で吐き捨てる真志喜に、榎本は首を傾げる。
西倉が男の腕を捻り上げたことで悲鳴が上がった。
「鏑木グループに金でいいように使われたってところかな。要は捨て駒だね」
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